小説家を見つけたら 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
ジャマールの日常
ヘッドハンティング
隠棲する偏屈老人
侵   入
謝 罪 文
スカウトの申し出
超名門校、メイラー・キャロウ
ジャマールとフォレスター
名門高校での生活
フォレスターとクローフォード
文章技術の訓練
ふたたびの情熱
ティームのライヴァル
クレアの接近
偏見と嫉視
窮   地
孤独な戦いと友情
外したフリースロー
「信義を全うする時季」
最後の旅立ち

ティームのライヴァル

  メイラー高校で、ジャマールは持ち前の知性や能力をし始めた。スポーツでも。
  バスケットボール・クラブでは、それまでティームのエイスだったコープランド・ジュニアとの突っ張りあいは続いていた。
  ある日の練習試合で、コープランドはマントゥーマンで張り付いたジャマールを意図的に突き倒す反則を犯し、これに対してジャマールも押し返した。コウチが飛んで来て2人を分けて、フリースローでの対決をさせた。負けた方が、ペナルティとしてランニングをすることにして。
  始めてみると、両者とも譲らず、失敗なしで連続で50ゴールまで勝負はつかなかった。ジャマールが56ゴール目をあげたところで、コープランドが外した。
  だが、コウチはあまりに凄い対決に驚き、勝敗はなしにした。
  そして、2人の活躍でメイラー高校のティームは地区予選を勝ち抜いていった。

クレアの接近

  地区予選の優勝で連邦レヴェルの(全国)大会出場が決まって、祝勝パーティが催された。会場は理事会役員の豪壮な邸宅らしい。ジャマールが会場に入ると、クレアが近づいてきた。彼女が邸内のことをとてもよく知っているので、訳を尋ねると、「私の家なの」という答え。彼女の父親はメイラー高校の理事長だという。
  クレアの父親、スペンス氏はアイヴィリーグの超一流大学の有力やり手教授で、人脈と資金に物を言わせてメイラー・キャロウの理事会に割り込んだ。そして、高校に多額の寄付金を続けて影響力を拡大して、ついに理事長におさまった。ついに、それまで男子高校だったメイラーを男女共学にしてしまったという。娘のクレアを、この超一流名門高校に入学させるためだった。
  だが、何事にも自分の権威を押し広げようとする父親の「政治学」に、クレアはうんざりしているようでもあった。とはいえ、自分を凄く大事にする父親を好きだった。

  クレアは、ブロンクスの貧しい母子家庭育ちの少年の才能と飾らない率直さに惹かれ、強い親密感を抱いていた。で、パーティをきっかけにジャマールに近づこうとする。だが、それぞれが「所属する階級=ステイタス」の違いを深く気にするジャマールは、クレアの好意を喜びながらも、大きな戸惑いを感じていた。
  ジャマールはこの悩みをフォレスターに打ち明け、相談した。フォレスターは2人がうまくいくように助言した。
「女性に接近する一番の方法は、思いもつかない気の利いた贈り物をすることさ」
  と言って、フォレスター自身の作品の初版本の扉にサインをして、ジャマールに渡した。年若い友人のために、ためらいもなく、長く手元に置いておいた大事なものを贈ったのだ。
  ジャマールはある日、高校でクレアに贈り物をした。「古書店で偶然見つけた」と言って、あのフォレスター肉筆署名入りの初版本を渡したのだ。まずどこでも手に入れられない稀購本だ――この世に1冊しかないのだから。クレアは大感激。
  クレアは、親密さを増すことに戸惑いを抱くジャマールに、「私たち、別にすぐに結婚するというわけでもないんだから、このまま自然体でいきましょう」と説得した。

  この作品は架空の物語なのだが、フォレスター、ジャマール、クロフォード、クレア、コープランドと人物の造形と配置がじつに面白い。挫折への対応や態度、偏見(逆に偏見のない態度)や嫉妬(嫉視のない、他人の能力や才能への尊敬)を絡めた人間関係が、じつに輪郭明白に描かれている。
  たとえば、「上から目線」と猜疑心にあふれたクロフォードと素直で偏見のないクレアとの対比。同じ超自己中心的な性格でも、すごい能力を発揮する――それだけの訓練と自己抑制を備えた――コープランドと内心自信がないクロフォードとの対比。
  この物語の人物たちの造形や彼らの関係性の分析をすると、映画や演劇の筋立てや脚本を学ぶために素晴らしい材料となるだろう。

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