一方、高校ではジャマールとクローフォードとの緊張関係は昂じていった。
ある日のクラスの終了直後、クローフォードはジャマールを呼び寄せた。教授は少年を前に圧力たっぷりの厭味、質問をぶつけたきた。
「総合学力テストでの君の成績は抜群だが、前の高校での成績はCばかりで、見るべきものがないね。どちらが、本当の君の能力を示すものだろうか。まあ、いずれはっきりするだろうが。…それとも、何か意図があって、この高校に転校してきたのかね」
自己の権威ひけらかしたい人間は、他人の言動に猜疑心を抱きがちだ。というよりも、自己の見かけの(脆い)権威を掘り崩そうとする人物(潜在的な敵)として見る――その結果、やたらに攻撃的になる――ようだ。虚勢を張る人間は、足許を見たがらないが、自分の弱点の発覚に結びつきそうな「危険のタネ」に対して、動物的な直観がはたらくものらしい。
猜疑心と嫉妬が強い、この教師は、低所得層の黒人が多いブロンクスの出身者というだけで、ジャマールという生徒を一段低く見下ろし、自分の権威を押し付ける対象とみなしたようだ。
名門高校は、学業成績や進学実績だけでなく、スポーツでもエリート性を見せつけなければならない。この分野でも奨学金や特待制度を使って、優秀な生徒を集めている。ジャマールは、クラブに所属してバスケットボールの選手としても活躍することを期待されていた。
メイラーのバスケットボール・クラブには、ニューヨーク近辺のこの種目の天才少年たちが集められていた。彼らは抜群の運動能力と実績を備えていた。当然、なかには、自分の優越性を過剰に意識し、自尊心の塊で、鼻持ちならない傲慢不遜な者もいた。
ジャマールがクラブの室内練習場に行ってみると、クラブのメンバーが2組に分かれて、練習試合をしていた。
コウチの指示で、ジャマールはひときわ優れた動きを見せる黒人選手を相手にマン・トゥー・マンで攻守を競うポジションを割り当てられた。その少年はコープランド・ジュニアという名前で、大富豪の息子だった。たしかに飛び抜けた力量をもつ高校生だが、大変甘やかされて育ったため、常に自分がトップにいないと気がすまない性格だった。自分の負けとか劣位を絶対に認めない、反則しても優位を確保しようとしていた。