刑事フォイル第5話 目次
第5話 50隻の軍艦
50隻の駆逐艦の供与
英独戦の戦況
サマンサの災難
ハワード・ペイジ
戦災地での窃盗・掠奪
晩 餐 会
その夜の出来事
リチャード・ハンター
新聞記者モートン
盗品の隠し場所
ハンスの証言
フォイルの執念
物語の可憐な花、サマンサ
 
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リチャード・ハンター

  次にフォイルはリチャード・ハンターの死亡事件をめぐる捜査に当たった。その死は自殺によるものか、それとも他殺なのかを捜査することになった。銃を握っていて、しかも頭部に銃創があることからすれば、自殺と見られるが、偽装かもしれない。
  近所での事情聴取の結果、リチャードはアルコール依存症で、しょっちゅう近所のパブに入り浸っていることがわかった。そして、息子のケネスとの折り合いがかなり悪いことも。
  20歳になるケネスは義勇消防団41E分隊のメンバーだった。この田舎町ではほかにやる仕事もないので、仕方なく義勇消防隊員となっているのだが、荒くれ者ばかりの同僚とは折り合いが悪かった。
  ケネスは頭脳はかなり明晰らしく、自分の居場所がないようなこの町を出て航空専門学校で学びたいと願っていた。しかし、酒浸りの父親には甲斐性がなく、家には学費となる資金の蓄えはなかった。
  そのことで、しばしば父親と口げんかした。

  死んだ日の夕方、リチャードはケネスと言い合いをした。リチャードは息子との言い争いが嫌になって――息子の言い分の方が正しいことは十分わかっていたので――、逃げるようにパブに行った。地元の新聞クロニクルに、ハワード・ペイジがヘイスティングズに来ているという記事を見た。
  その記事を見て、彼は金を要求するためにアーサー・ルイス邸にペイジを訪ねることにしたようだ。

  フォイルは、リチャードのかかりつけの医者、レドモンドからの聞き取りをおこなった。レドモンドは軽蔑を隠そうともせずに、リチャードの人物を評した。
  「彼はオクスフォード大学を出たのに、何やら精神的なショックで無気力になり、この近所で雑貨店を経営している。そして、アルコール依存症だ。人生の敗残者だ。
  オクスフォードで積んだ学問がまったく無駄になっている。
  だから、自殺衝動があってもおかしくない」と。
  レドモンドからの情報でハワード・ペイジとリチャード・ハンターは大体同じ年齢でオクスフォード大学に在学していたことが判明した。では、2人の間の関係はどのようなものだったのか。


  フォイルはさらにオクスフォード大学のある学寮にリチャード・ハンターを指導した老教授を訪ねた。老教授によれば、彼は父親が勤務していた製薬会社から学費支援を受けた奨学生だった。才能にあふれた非常に優秀な学生だった。
  そして、ペイジとの関係については、エリート家系出身のペイジとは階級差があって友人というような関係ではなかった。だが2人は研究仲間だった。ともに機械工学では、知識と技術に関して自信にあふれる優れた研究者だったという。
  あるとき2人はある富豪の自動車を勝手に借り出して分解してしまったが、その場で設計構造を理解し、完全に元通りに組み立てることができた。そのくらい卓越した機械工学家だったという。

  やがて2人はシンクロメッシュ Synchromesh という画期的なトランスミッション機構を発明したという。
  とはいえ、シンクメッシュ機構を発明したのは主にリチャードだった。だが、発想コンセプトが進みすぎていたのと開発資金がなかったため、そのときは実用化にはいたらなかった。
  ところが、ハワードはアメリカに帰国してからシンクロメッシュを実用化して特許権を取得し、その後のモータリゼイションの飛躍的な発達のなかで巨額の富を獲得することができた。
  つまり、ハワードはリチャードの発明をこっそりアメリカに持ち出して実用化して大きな利益を得て大富豪になったというわけだ。
  一方、研究仲間の裏切りに会ったリチャードは失意のあまり、無気力になって自動車工学の研究をやめ、田舎町で雑貨店を開き、細々と暮らすことになった。そして、酒で憂さを晴らすようになった。
  もし失意を乗り越えて研究を続けていれば、有能なリチャードなら、別の発明や経済的成功につながったかもしれない。彼はあまりにナイーヴで繊細すぎたのだろう。知能はすこぶる高いが、生き馬の目を抜くような技術開発競争や経済競争――業績争いやライヴァルの蹴落とし合い――にはまったく向かない人物だった。

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