刑事フォイル第5話 目次
第5話 50隻の軍艦
50隻の駆逐艦の供与
英独戦の戦況
サマンサの災難
ハワード・ペイジ
戦災地での窃盗・掠奪
晩 餐 会
その夜の出来事
リチャード・ハンター
新聞記者モートン
盗品の隠し場所
ハンスの証言
フォイルの執念
物語の可憐な花、サマンサ
 
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フォイルの執念

  翌朝、ハワード・ペイジはビショップの運転で軍用空港に向かった。アメリカに向かう軍用機に搭乗するためだ。
  ところが、またしてもフォイルが行く手に立ちふさがった。飛行場の前で待ち構えていてペイジとの対決に臨もうとしていたのだ。
  もとより警護役のビショップはフォイルを止めようとしたものの、フォイルの信念に譲歩することにした。もとより、ペイジは外交特権に守られていて、警察官は逮捕権の行使はできないのだから。

  フォイルは突き止めた真相をペイジに突きつけた。
  「晩餐会の夜、あなたは突然訪れたリチャード・ハンターに対して、晩餐会の後で海岸の丘で会う約束をしたはずだ。
  深夜そこで会ったとき、リチャード・ハンターはあなたに金を要求した。息子を専門学校で学ばせるための資金とするためだ。
  要求の理由は、あなたがハンターの発明を盗用してシンクロメッシュのアイディアをアメリカで実用化したからだ。
  ところが、あなたは拒否した。
  すると、ハンターは銃をあなたに向けて、金を払わなければ殺すと脅した。しかし、あなたはハンターに人を殺す覚悟はないと見抜いていた。
  ハンターはあなたから狙いを外して発砲した。銃弾は近くの小屋の窓ガラスに当たった。そしてハンターはあなたの弱点を突く脅し文句を吐いた。
  あなたが発案を盗用した事実を新聞に公表してやると。著名人のあなたにとってはスキャンダルだ。
  だから、あなたはハンターを転がして銃を奪い取って、彼の頭を撃ち抜いた。そして、死んだ彼の手に銃を握らせたんだ」
  フォイルの指摘は真相を言い当てていた。
  それでもペイジは自分の身が外交特権によって守られていて逮捕されないことを知っているので、不遜な態度を変えなかった。

  するとフォイルは、ビショップを別の部屋に連れ出して問いかけた。
  この英国で殺人を犯して平然としている卑劣な男を保護し続けるのか。しかも、警察署に侵入してメモを盗み出し、ハンターを殺した直後に丘から逃げ帰るところを目撃したモートン記者を拉致したのは君たち情報部だろう、と。
  ビショップはモートンの拉致を認めた。そして、「モートンは無事だ。ただし、ペイジが輸送機でアメリカに向けて飛び立ったあとで解放する」と答えた。
  「私たちも、殺人犯のペイジを保護して国外に送り出すことに屈辱を感じないわけではない。だが、これはブリテン王国が生き延び、ナチスとの戦争を勝ち抜くための国家的な課題のための任務なのだよ。わかるだろう」


  フォイルは返答した。
  「仕方がない、わかった。
  だが、最後にペイジにひとこと言わせてくれ」
  ビショップはフォイルがどんなことを言うか見当がついたが、それを許した。
  戸外に出るとフォイルは輸送機に乗り込もうとしているペイジに近づいて言い放った。
  「たしかにあなたをここで逮捕できない。あなたがアメリカに帰国する自由を今は認めるしかない。あなたの勝ちだ。
  だが、あなたの自由はこの戦争が終わるまでだ。戦争が終わったら、あなたの殺人罪を公表し、あなたをどこまでも追及して逮捕する。そのことを忘れないように」
  勝ち誇ったような態度でいたペイジは、それを聞くと顔面蒼白になり、追い詰められたような表情になった。

  情報部員のビショップがフォイルにこのような言動を許したのは、おそらく2つの理由があった。
  1つ目は、ブリテンの国家主権の担い手エリートとしての矜持で、殺人を犯しながら勝ち誇ったように自由に帰国するペイジに本音では強い憤りを抱いていたからだろう。
  2つ目は、警察権を持つ情報部としてもペイジの殺人をめぐる証拠をつかんでいることをフォイルの言動をつうじて伝え、間違いなくアメリカ大統領が援助協定に署名するように努力しろという強い圧力を加えるためだろう。
  ブリテン国家の役に立つ道具でいる限りで、ペイジは殺人犯としての逮捕と訴追を免れるているにすぎないのだ、と威嚇するためだ。
  援助協定締結に失敗したら、ブリテン国家はお前を殺人罪で追及することになるだろう、という脅しだ。

  ハンター殺害はブリテン国内で発生した犯罪だから、ペイジが国外に去れば、時効――長い時間の経過が犯罪捜査権を失効させるという制度――は停止し、彼がどこに逃げようと永遠に殺人犯として追及から免れることはない。ブリテン政府と警察は、このあといつでも任意のときにペイジを殺人罪で追捕・拘束し、処罰することができるのだ。そういう法理となる。
  この時代の殺人罪の刑罰は絞首刑だ。
  ペイジが死刑を免れたければ、帰国してからまさに命がけで援助協定の締結を成功させ、ブリテン国家の恩赦を期待するしかないということだ。

  フォイルとしては、戦時の国家の存亡がかかる外交関係が壁となって、リチャード・ハンター殺人犯を特定しながら逮捕することはできなかった。一方、ペイジとしてはブリテン警察と情報機関によって殺人の証拠を握られ、この後死ぬまで逮捕と刑罰の恐怖を抱え込んでいきなければならない。
  双方にとって苦い、皮肉な結末だ――勝者がいないゲイム。ブリテン人好みの幕引きとなっている。

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