ブリテンとドイツ双方ともに多いなる誤算によって始まったバトゥル・オヴ・ブリテンの冷厳で悲惨な現実と戦況を淡々と描く戦史映画。パリ生まれのイングランド人、ガイ・ハミルトン監督の冷徹で皮肉に富んだ視点がみごとだ。
原題は The Battle Of Britain 直訳すると「ブリテンの戦い」ということになるが、意味するものは深い。とりあえずは「ブリテン本土をめぐる攻防」という程度に理解しておく。
すでに19世紀後半には工業力でブリテンを追い抜いていたドイツ。ヨーロッパ大陸での覇権闘争として挑んだ第1次世界戦争で大敗北をこうむったのち、ふたたび強大な経済力を形成したものの、ブリテン帝国のヘゲモニーのもとで世界とヨーロッパは列強諸国家による勢力分割の枠組みは画定されていた。そこで、ナチスが率いるドイツは、この勢力機構の構造をぶち壊し、おのれの勢力圏の拡張をめざした。
それは、ブリテンのヘゲモニー下の勢力均衡の構造への挑戦だったから、ブリテンと衝突することになった。ヒトラーは、同じゲルマン(テュートン)民族としてブリテンと新たな勢力構図をめぐる妥協・協定を結ぶもくろみだったが、ブリテンの強硬な拒絶と敵対に直面して、力わざによるブリテン制圧を試みた。
それがヒトゥラーが構想したブリテン侵攻作戦 Operation Seelöwe (アシカ作戦)だった。その戦争は、ブリテンとドイツともに彼我の戦力の見積り誤りにもとづくもので、見積りの過誤がひどかったドイツが敗北し、結局、ヨーロッパと地中海での戦線の崩壊に結びついていった。
見どころ:
1940年6月から10月にかけて、ドイツ空軍のブリテン攻撃に対して果敢に戦ったブリテン王国空軍(RAF)の苦闘を描いた作品。ほぼ戦史上の事実にもとづいて、戦況や戦闘場面を再現=映像化している。
戦争や戦闘というものの過酷さや残酷さも抑制された視点で丹念に描き出されている。
しかし、映画に登場する飛行士(戦闘機乗り)たちは架空の人物だという。
ともあれ、実物や実物そっくりにつくった航空機(実物大および模型)を飛ばしての撮影で、迫真の航空戦闘シーンが再現されている。だが、戦争アクションではなく、地味に淡々と冷静に描き切っているので、アクションが見たい人には向かない作品だ。
ブリテン人の実証主義的歴史観の徹底ぶりはすごいと感心するしかない。その意味では、この映画は戦争を記録した歴史的資料(戦史資料)として、きわめて高い質を備えている。戦争というものを冷静かつ批判的に考察・分析したい人たちにおススメの作品だ。
ただし、邦題「空軍大戦略」というのは、いただけない。
英独双方とも「大戦略」なしに――戦略の欠如というか戦略のひどい誤りにもとづいて――突入し、偶然の連鎖で帰趨がしだいに決していく戦いであったのだから。
だが、私たちは、その偶然の連鎖のなかに、客観的な力関係の推移を見ていこうと思う。
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