刑事フォイル第5話 目次
第5話 50隻の軍艦
50隻の駆逐艦の供与
英独戦の戦況
サマンサの災難
ハワード・ペイジ
戦災地での窃盗・掠奪
晩 餐 会
その夜の出来事
リチャード・ハンター
新聞記者モートン
盗品の隠し場所
ハンスの証言
フォイルの執念
物語の可憐な花、サマンサ
 
『刑事フォイル』作品索引
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物語の可憐な花、サマンサ

  シャーロック・ホームズ並みの洞察力と推理力、そして権力の横槍や利害の壁に敢然と立ち向かう硬骨漢、フォイル。
  手堅い捜査能力と観察眼のミルナー。
  この物語は、ヘイスティングズ警察署の有能で強力な捜査陣の活躍を描いていて、そこには脇役の「ミスタ・ワトスン――ワトスン君――」はいない。
  そして、彼らの犯罪捜査は第2次世界戦争期の戦時体制下のブリテンの厳しい社会状況のもとで展開する。
  そんな殺伐とした状況設定のなかで、ちょっぴり輝く小さな花、それが運転手のサマンサ・ステュアートだ。茶目っ気があって、冒険心と知性に富んでいる、妙齢の清楚な美人。

  ブリテン社会では、戦争と戦時体制下で政府にも軍にも、民間企業にも人材が不足したため、女性たちが最前線以外のあらゆる職場に進出していく。英国陸軍の自動車による国内輸送部隊の主力を担うのも、彼女らだ。連合軍を勝利に導いたロジスティクスも、女性たちの努力があってこそのものだった。
  大戦争を契機とする工業化文明のなかでの女性の社会進出……世界史のなかで、そういう画期的な社会構造の転換の過程を象徴するのが、フォイルの運転手兼助手のサマンサだ。

  そのサマンサは、今回の物語ではドイツ軍の空爆の被害を受け、危ういところで死傷を免れた。しかし下宿先のハリスン夫人宅が焼け半壊したため、宿なしになってしまった。小さな町の宿泊施設は戦時の人移動でどこも満室。泊るところがない。
  そんなサマンサにミルナーが救いの手を差し伸べた。
  妻のジェインがウェイルズに旅行中だからと、フォイルに内緒で次の住居が見つかるまで、空いた部屋に泊めてくれることになった。
  ところが、急遽、ジェインが帰宅したため、ミルナー宅も出ることになった。若い美女が自宅に夫といたということで、ジェインはミルナーとサマンサの関係を誤解して、関係がこじれかけて、大変だったらしい――すでにジェインの側からは夫婦関係は壊れているのだが。


  ふたたび宿なしになったサマンサは、警察署内の留置場に寝泊まりすることになった。マットも敷いてない硬いベッドで疲れた身体を横たえる日々となった。
  そんなサマンサは、はからずもリチャード・ハンターを殺害した人物と動機を探るうえできわめて重要な物的証拠の意味に光をあてる役割を担うことになった。
  このシリーズでは、彼女の思いつきや言葉は、ときおり事件の解明を方向づける光明となるのだ。
今回の光明は、リチャードが大事に持っていた倉庫の鍵のキイホールダー ――すなわち中央部が空洞となった直径8センチメートルほどの歯車――を自動車のトランスミッションの部品だと指摘したことだった。
それはシンクロメッシュというミッション機構の枢要な部品で、それゆえ、失意の生活のなかでもリチャードは大事に持ち続けていたのだ。

殺人事件の背景――原因ならびに動機――として、このシンクロメッシュの技術考案があったのだ。
サマンサの一言で、フォイルたちの事件の捜査は一気に方向が定められ、進展する。
彼女の言動はまさに闇を切り裂いて輝く稲妻のごとくに鋭く輝く。
そういう意味では、サマンサはこの物語の巧みな狂言回しの役を演じているのだ。

そんな彼女が宿なしになって留置場で寝泊まりしているのを知ったフォイルは、「騎士道精神」というか「紳士道精神」――いや可愛い娘を心配する親心に近いかも――を発揮して、「住居が見つかるまで私の家で寝泊まりしなさい。ただし、誰にも内緒だよ」と申し出る。それが終幕となる。 殺伐な事件捜査の終わりに輝く光明ではないだろうか。

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