ラストエンペラー 目次
見どころ
あらすじ
世界史の文脈のなかで
最後の皇帝の人生回顧
宣統帝溥儀 死にゆく帝国
中国の帝国レジーム
「分封建国」
奇妙な政治体=帝国
文字情報と官僚制
帝室と宦官
帝政の権力構造
皇帝権力の基盤
装置としての皇帝
最後の帝国「清」
遅れてきた帝国
ヨーロッパの勃興と…
ブリテン…東インド会社
アヘン戦争
崩壊する帝国
帝政の最期
辛亥革命と帝国の滅亡
「遺骸」としての宮廷
残骸宮廷と溥儀の心性
茶番劇の復位
分裂する人格

最後の皇帝の数奇な運命

原題 : The Last Emperor (最後の皇帝、最後の帝位継承者)
  公開は1987年。

見どころ
  宣統帝溥儀の数奇な運命をたどることで、近代中国の歴史、なかんづく権力闘争の歴史を瞥見することができます。
  この権力闘争とは、中国をめぐる欧米日の列強の国際的争奪戦、日本の侵略と第2次世界戦争、共産党主導の革命、文化革命など、1世紀以上におよぶ過程をなすものです。

あらすじ

  中国史上、最後の皇帝となった宣統帝溥儀は、個人としては大変数奇な人生を歩んだ。彼の奇妙な運命と彼をめぐる動きをつうじて、近代中国の独特の歴史の断面が描き出される。
  清朝(帝国レジーム)の崩壊、欧米日の諸列強による侵略と収奪=植民地支配、いくつもの革命の挫折、共産党支配による「革命」と国家形成、「文化革命」という名の破壊的運動などが、彼の人生を変え、押し流していった。

  「辛亥革命」で帝位を剥奪され、権威を奪われた溥儀は、しかし、政治的権威をともなわない単なる飾り物としての禁城=宮廷にとどめられた。強い自意識をもつ溥儀は、なんとか自分の存在と帝政の復権を望んだ。
  だが、混乱した状況のなかで彼が選択・企図した動きは、結局、大きな権力のなかで操られる「傀儡」(操り人形)になっていく道につながった。

  中国侵略をねらう日本の陸軍は満州帝国をつくり上げて溥儀を皇帝の座に据えた。やがて共産党主導の革命運動が始まり、日本軍との闘争は世界戦争に連結していく。
  やがて政権を握った共産党は、革命の事業として溥儀の人間改造を試みる。溥儀は改造教育の担当者と心を通わせるが、その担当者は文化革命で「裏切り者」として断罪されることになる。
  皇帝や指導者の立場に据えられた人びとは、歴史の舞台の操り人形のように変動の波に押し流されていく。

世界史の文脈のなかで

  世界経済の文脈で見ると、近代資本主義の拡大発展は、ヨーロッパの、続いてアメリカや日本が加わった、諸列強による世界市場の暴力的な分割・再分割闘争として展開していきます。
  その過程をカール・マルクスは《資本》のなかで次のようにまとめています。

  アメリカでの金銀産地の発見、原住民の駆逐、奴隷化と鉱山への生き埋め、東インドの征服と掠奪の開始、アフリカの商業的黒人狩猟場への転化、これらのことがらは資本主義的生産の時代の曙光をいろどっている。このような牧歌的過程が本源的蓄積の主要契機なのである。これに続いて、全地球を舞台とするヨーロッパ諸国民の貿易戦争が始まる。それはエスパーニャからのネーデルランドの離脱によって開始され、イングランドの反ジャコバン戦争で巨大な範囲に広がり、中国に対する阿片戦争で今なお続いている。

  資本主義的世界経済の中核・中心になりえたのは、いち早く国民国家を形成して自らの周囲の諸地域を侵略し収奪することができた地方だけでした。ヨーロッパ諸国民の際限のない欲望の前に、多くのアジア諸地域は蹂躙されていくことになります。
  さて、清朝帝国が対に崩壊するところからこの映画の物語は始まります。帝国の崩壊は、ヨーロッパ・アメリカ諸列強になかんづく日本が加わったことで加速されました。
  イングランドがウェイルズやアイアランド、やがてはアメリカ大陸やアジアを侵略収奪することで世界貿易と国内工業を育成する条件を獲得したように、日本も周囲のアジア諸国への侵略と収奪を国民国家形成や「近代化」の条件としたのです。
  これが世界市場的文脈で見た場合の19世紀から20世紀の構図です。

  一方で中国は、ヨーロッパよりも1000年以上も先駆けて統治や政治の装置を創出したという固有のユニークな歴史をもっています。
  この2(中国史の縦軸と横軸)をクロスオーヴァーさせてみると、どうなるのでしょうか。

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