ラストエンペラー 目次
見どころ
あらすじ
世界史の文脈のなかで
最後の皇帝の人生回顧
宣統帝溥儀 死にゆく帝国
中国の帝国レジーム
「分封建国」
奇妙な政治体=帝国
文字情報と官僚制
帝室と宦官
帝政の権力構造
皇帝権力の基盤
装置としての皇帝
最後の帝国「清」
遅れてきた帝国
ヨーロッパの勃興と…
ブリテン…東インド会社
アヘン戦争
崩壊する帝国
帝政の最期
辛亥革命と帝国の滅亡
「遺骸」としての宮廷
残骸宮廷と溥儀の心性
茶番劇の復位
分裂する人格
政変、追放、そして亡命
ソ連の俘虜、そして東京裁判
中国への送還
収監と改造教育
「文化革命」との遭遇
映画制作の「背景」を探る
中国と日本との皮肉な関係

■帝政の権力構造■

  ひとたび成立するや、帝国という観念=制度は燦然と輝き、きわめて強力な呪物的性質・呪縛力を持ち続けました。
  漢民族がつくり上げた王朝はもとより、中国本土に外部から入り込んで王朝的支配や帝国支配を築き上げた、いかなる民族や勢力、部族集団も、上記のような諸制度を統治のための「文明の文法」として受け入れ、その習得や掌握が必要だと観念したようです。
  それらの制度を継承し洗練させることが帝国の支配・統治のために必要だという世界観が、統治者やその予備軍にとって、抜き差しがたい「共同主観」となっていたのです。

  秦の始皇帝は、皇帝という地位とか、「朕」および「陛下」という呼び名、中央と地方との軍政などの帝国に付随する制度をはじめて創出・開発したといわれています。正確に言うと、後世に残る形で定式化したということなのですが。
  また、皇帝は「天子(天の子: the child of heaven )」であると位置づけた(意味づけた)といいます。統治や支配の仕組みの呼び名をつくったわけですが、それはまた帝国全域に通用する文字システムとプロトコル、つまり情報システムとしての「漢字」を体系化システマタイズしたのです。

■皇帝権力の基盤■

  ところが、実在的な政治的・軍事的構造から見ると、皇帝は絶対的権力、絶対的支配者ではありません。その時点で多数の王侯の上に立つ最高の王、最有力の王であるというにすぎないのです。
  つまりは、皇帝の権力は、諸王・諸侯の連合・同盟の基盤の上に乗ってはじめて成立しているにすぎないのです。この連合・同盟の内部での力関係が変化すれば、皇帝は容易に地位を追われ、王朝の名前が変わることになります。
  「易姓革命」という論理そのものが、皇帝の地位の脆弱性や相対性を物語っています。天命の変化を王朝の姓名の変化交替として表すのです。


  帝室や中央政府の力が目立って弱まれば、皇帝を支える諸王・諸侯の同盟はたちまち崩れ、彼らのあいだで次の天命の担い手をめぐる覇権闘争が繰り広げられるのは必然です。
  それゆえにこそ、地方に対して皇帝の権威や優越・志向性を飾り立て誇示する装置が物を言うのですが。

  ところで、世界システムとしての中国の帝国は、その版図の内部に多数の王国、侯国、部族領、都市国家などの政治体や経済組織を包含していました。だから、帝国の権力ないし皇帝の権威のはたらきや度合いは、地方ごとに濃淡の差がありました。
  古代帝国では運輸・通信技術が現代と比べてきわめて未発達でした。だから、使節や軍・代官の派遣などをつうじて、中央政府からの地方への権威や統治情報、軍事的・行政的影響力の伝達はおそろしく緩慢で、各地方へのその到達のありようもまた千差万別でした。

  皇帝の政府は、各地の支配者・有力者たちに対して、観念上はその至高性を主張しましたが、それは一方的な支配関係ではないのです。
  皇帝の政府は、各地方の王や君侯、豪族との恩顧関係、相互依存関係を自覚的に、あるいは自然発生的な成り行きとして、組織しました。臣従や恭順を誓った諸王・諸侯に対して、固有の領土・領地の支配と法を認めました。

  他方で、地方の支配者にとっては、自らの権威が、名目上は天命を受けた最上位の君主=皇帝の権威によって裏打ちされることが望ましかったのです。
  この権威の裏打ち保証と引き換えに、地方の支配者は皇帝を支える君侯たちの同盟に参加し、要するに形のうえでは臣従を誓うことになるのです。
  彼らもまた自らの王国や侯国を支配するためにより下級の地方有力者の臣従や恭順に依存していたのです。
  それゆえ、皇帝中央政権と利害が衝突・背反するような地方や階層は、叛乱を引き起こすことになるのです。辺境では外部の権威が浸透しやすいから、ことにそうなりやすいのです。
  いつの時代の帝国も、ときおり、その版図の内部で叛乱や暴動、蜂起を経験していました。むしろ辺境では、いつもどこかで反乱や蜂起、衝突が起きていたようです。
  そもそも「国境」という観念も制度も成立しようがなかったので、いかなる政治体も辺境によって縁どられていたのです。

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