ラストエンペラー 目次
見どころ
あらすじ
世界史の文脈のなかで
最後の皇帝の人生回顧
宣統帝溥儀 死にゆく帝国
中国の帝国レジーム
「分封建国」
奇妙な政治体=帝国
文字情報と官僚制
帝室と宦官
帝政の権力構造
皇帝権力の基盤
装置としての皇帝
最後の帝国「清」
遅れてきた帝国
ヨーロッパの勃興と…
ブリテン…東インド会社
アヘン戦争
崩壊する帝国
帝政の最期
辛亥革命と帝国の滅亡
「遺骸」としての宮廷
残骸宮廷と溥儀の心性
茶番劇の復位
分裂する人格
政変、追放、そして亡命
ソ連の俘虜、そして東京裁判
中国への送還
収監と改造教育
「文化革命」との遭遇
映画制作の「背景」を探る
中国と日本との皮肉な関係

■ヨーロッパの勃興と世界経済■

  ところが、清帝国が繁栄の頂点を極めていた時期に、外部の世界は大きく転換していたのです。
  ヨーロッパの諸国民国家が、互いに勢力圏の争奪・分割闘争をしながら、強大な軍事力をもって地球上の地理的広がりの大部分を支配・征圧するようになっていました。

  ヨーロッパでは中世晩期に、それまで500以上の多数にのぼっていた微小な領主支配圏の生き残り競争が繰り広げられ、それらの統合・融合と再編が始まり、やがてより少数の有力君侯による領域国家形成の動きに結びついていきました。
  このような政治的・軍事的秩序の組み換えの背後には、ヨーロッパ各地の有力都市の商人グループによる遠距離貿易・世界貿易のネットワークづくり、つまり商業資本の権力の拡張がありました。

  この2つのトレンドは相携えて進展し、16世紀には、ヨーロッパ世界経済が出現しました。その地理的範囲は、東西ヨーロッパと地中海、そして沿岸部のアメリカ大陸を包含していました。
  この世界経済の内部では、王政を主要な形態とするいくつかの政治体(軍事単位)が相互に対抗し合っていました。それらのうち生き残ったものは、やがて国民国家へと成長していきます。
  強力な諸国家の周囲には、それらに従属しがちな小さな政治体(有力貴族が支配する公領や伯領や都市など)がひしめいていて、自立的な国家になろうともがいていました。

  これらの国家や政治体のうち、生き残って有力な国民国家になることができたのは、域内の有力な都市商業資本と結びついて、世界市場である程度有力な地位を築くことができたものだけでした。一握りの少数です。そして、ヨーロッパの外部の世界を軍事的に征服・分割し、政治的・経済的に支配することが、列強諸国家が生き延びるための条件となったのです。
  ヨーロッパの征服活動をつうじて形成された世界経済。そこでは、ヨーロッパ各地の商業資本グループの世界市場運動と資本蓄積競争によって、その最も主要な権力構造がつくり上げられ、運動していたのです。

  この資本主義的世界経済のなかで、16世紀後半から18世紀前半までは、ネーデルラント連邦(ユトレヒト同盟)が商業や金融、製造技術において最優位を保持し、ヘゲモニーを握っていました。

■ブリテンの最優位と東インド会社■

  ところが、18世紀の後半から末にかけて、ブリテン王国がネーデルラントを追い抜き、追い落としていきました。イングランド商業資本は、大西洋貿易とヨーロッパ内貿易で優位を獲得し、大西洋や地中海、バルト海で最強の海軍力を誇示するようになったのです。
  アジアとインド洋方面でも、イングランド東インド会社とこの会社の周囲に結集したブリテン商人がネーデルラントを追い抜いて最大の権力をおよぼすようになっていきました。

  とくに、ムガール王朝の帝国レジームが揺るぎ崩壊するにつれて政治的・軍事的に分裂していくインドの各地で、ブリテン人たちは、東インド会社をつうじて軍事上および貿易上の拠点を確保し、支配圏を拡大していきました。
  東インド会社は名目上は特殊な商業組織ではありましたが、王権から特許状を与えられ、固有の立法権と裁判権を保有して、軍隊や行財政組織を運営し、またブリテン本国の海軍を凌いで世界最大・最強の艦隊を保有する「国家」の体をなしていました。
  ブリテン本国の政府を除けば、当時、世界で最強の政治的・軍事的組織でした。

  18世紀末から19世紀前半にかけて、東インド会社を代表とするブリテン国家=資本の権力は、沿海部と商業ネットワークを橋頭堡にして、中国=清帝国の内部にも浸透しようとしていました。
  豊かな特産物(胡椒や香料、陶器など)や貴金属の交易が盛んな東アジアには、ブリテン以外のほかにも、アメリカやロシアが進出をもくろんでいました。
  19世紀後半から末になると、ようやく国家的統合を達成したドイツや日本もまた、中国と東アジア貿易をめぐる利権争奪競争に割り込んできました。
  これらの列強諸国家は、あからさまに政治的・軍事的に威嚇しながら、清朝政府に門戸開放――つまりは無防備なままに弱肉強食の世界貿易に引きずり込むこと――や権益と軍事拠点の割譲(つまりは植民地化)を強要していました。

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