ミシシッピ・バーニング 目次
アメリカ深南部の悲劇
原題と原作
見どころ
あらすじ
深南部の悲劇
プロテスタントの実態
公民権運動メンバーの失踪
分断され孤立させられる有色人種
憎悪と暴力の増幅
人種差別と対立の構図
突 破 口
捜査と「対抗暴力」
実際の事件と社会的背景
事件の捜査と裁判
最近の事件の問題性

プロテスタントの実態

  日本の高校までの「世界史」の教育では、アメリカの宗教観の押し付けなのか、いったいに、ローマカトリックは保守的であり、プロテスタントは(宗教改革を経て成立したとして)進歩的であるかのように描かれる。
  ところが、多くの場合、それは間違っている。

  たしかに、ローマカトリックは、科学の最新の成果を認めないし、女性の妊娠・出産をめぐる選択の権利を認めない。
  しかし、少なくともアメリカでは、プロテスタント諸派の方が、科学の成果や妊娠中絶に対する態度はより保守的・反動的だ。数から言えば、進化論を拒否・否定する宗派は、圧倒的にプロテスタント派だ。
  共和党右派を強固に支持し、それと引き換えに、自らの宗教観や倫理観、政策的好みを共和党の政策に反映・注入していこうとしている宗教右派も、その大部分はプロテスタントだ。彼らは、ナチスも顔負けの人種偏見、「異民族」と見なした者たちへのあからさまな嫌悪や排外・暴力を厭わなかった。


  また、ドイツの社会学者マクス・ヴェバーの「宗教社会学」も、少なくとも日本では、プロテスタントの近代性や進歩性という幻想を広げるのに役立っているかもしれない。『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に描かれた歴史観は、北ドイツ諸都市の歴史的経験をもとに、ドイツの後進性を過剰に意識したヴェーバーが、ブリテンの経済と宗教に関する幻想や先入見と事実の誤解をもとにして、組み立てたものと見ることができる。
  彼の理論を北ドイツ以外のブリテンやアメリカのプロテスタントや経済発展に当てはめるのは、歴史認識について大きな誤りを生むことになる。
  M.ヴェーバーは、ブリテンやネーデルラントの近代史、実際の宗教活動や教義、団体の実像を綿密に分析することなく、プロテスタントの進歩性を先験的に掲げている。もちろん、資本主義の実態と内容についても、理解が浅いというほかない。
  日本の社会学や政治学は、もう長いあいだ、これについて実証的批判なしに、その方法論を受け入れてきた。

  かくして、日本ではプロテスタントについて、大きな幻想を抱いてきたかに見える。
  だが、KKKなどの頑迷な団体の宗教的・信仰的基盤となってきたことを考えると、ヨーロッパ中世晩期以降の宗教の動きや「宗教改革」について、実証史学の現在の水準に即して学ぶ教育・研究を促す必要があるだろう。
  もちろん、あらゆるプロテスタント組織が政治反動に加担しているということではない。要するに、現実の社会的・政治的文脈のなかに位置づけて宗教や宗派の存在を分析しなければならないということだ。

  さて、アメリカ深南部の黒人や有色人種(および非プロテスタント系民族)に向けられた敵意や排外主義は、1970年代になっても、根強く残っていた。70年代になっても、黒人を同伴した旅行者が襲撃されたり、迫害されたりする(殺戮も含む)事件が続発していた。

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