アンダースンは、保安官補ヒルの妻で美容師の女性に接近した。彼女の言葉の端に、人種差別への嫌悪、悪弊に染まりきったこの町での生活の重苦しさが滲み出ていたからだ。それは、やはり深南部の田舎町で青年時代まで暮らしたアンダースン自身の苦い思い出と通底するものだ。その共感と、捜査に有利な情報を引き出そうというもくろみが重なった。
アンダースンは、美容院や自宅を訪ねて、捜査がぶつかっている障害を率直に打ち明けた。それとなく、夫のヒルが地位と職権を利用してKKKの暴力や破壊活動を繰り返していることや、とりわけ今度の殺害事件への関与を伝えた。
彼を逮捕し、訴追するうえで最大の障害となっているのは、ヒル夫人自身の証言だった。事件当夜、夫は彼女とずっといっしょにいたという彼女の証言だ。アンダースンは、そのおそらくは虚偽の証言を覆してほしいと遠回りに要請したのだ。
だが、彼女は深い混迷のなかにいた。
一方、アンダースンはKKK集団の真っただ中に入り込んでいった。
フランク・ベイリーが営む居酒屋は、KKKの「兵士たち」のたまり場だった。アンダースンはその店を訪れて、得意のそれとない会話での言葉の端ばしから情報を引き出したり、さらには威圧やハッタリをかけて、「うっかり発言」を呼び起こそうとした。だが、彼らはFBI捜査官に強い警戒心を抱き、つけ入る隙を与えなかった。
それどころか、ベイリーは「南部人のくせに裏切り者」とアンダースンを罵倒し、襲いかかろうとした。
だが、荒くれ者や裏社会の手合いと現場で渡り合ってきたアンダースンは、敵の攻撃を待ち構えていた。ベイリーの挑発をかわして、ズボンの上から彼の睾丸をつかみ攻撃を封じ込め、失神寸前まで追い込んだ。最後には「力技」で追い詰めてやる、と挑戦したのだ。
ある日の午後、アンダースンはヒル保安官補の自宅を訪ねた。美容院の休日で、ヒル夫人が自宅にいるはずだったからだ。彼女は、自分たちの町、自分たちの慣習を恥じていた。だが、旧弊な因習に捕われている自分を恥じていた。
やがて、彼女は、以前の証言を撤回した。あの夜、ヒルはいつもの仲間たちと保安官事務所の車で出かけていった、と事実を打ち明けた。
それは、彼女の人生のニューディール(再出発、やり直し)に向けた強い決意の発露だった。妻は夫に「盲目的に従う」という因習が強固に残っている深南部で、夫の罪状を暴き立てる証言をすることは、とてつもない勇気を必要とする行為だった。
夫人の証言によって、保安官補を尋問してこの町のKKKが関与した醜悪な事件を暴きだすための突破口が開けた。