だが、彼女の証言の情報はKKKとヒル保安官補に漏れてしまい、ヒル夫人は、仲間とともに自宅に戻ったヒルから残虐な暴行を受けて重傷を負ってしまった。隣人の通報で、救急隊が駆けつけ、瀕死の夫人は病院に運び込まれた。
ところが、この暴行事件は、KKK壊滅への引き金となった。
アンダースンは、夫人の災厄を知って病院に駆けつけた。意識を失った彼女は、弱よわしく病床に臥していた。いく度も修羅場をくぐり抜けたアンダースンは憤り、得意の力技に訴えようと決意した。アランに強く迫り、膠着した捜査の壁を突き崩すために、「目には目を、歯に歯を」の作戦の展開を迫った。やはり、怒りと焦燥に身を焼いていたアランもついに諒解した。
暴力には「対抗暴力( counter-violence )」というわけだ。
作戦の眼目は、KKK団員の若造の1人を罠にはめて、仲間割れをそそのかし、仲間の復讐から命を助けるのと引き換えに事件の真相についての情報を提供させようというものだ。
まず、その若者を衆人環視のもとでFBIの車両に乗せて、強引に拘引し、町中を引き回してから解放した。彼の仲間たちに、わが身可愛さに内通しかねないという猜疑心を呼び起こすためだ。その後も、アンダースンは執拗にこの若者につきまとった。
ついにある夜、白いとんがり帽子(KKKのユニフォーム)を着た数人の仲間が、この若者を襲って、車に乗せて引きずり回して野原に行き、ついに首に縄をかけて木の枝に吊るそうとした。そのとき、追走してきたFBIの車が追いつき、若者を救出し、KKKの一団を追跡した。
けれども、その追跡はおざなりのもののように見えた。
騒ぎの現場から遠ざかると、とんがり帽子を脱いだ男たちが、アンダースンやアランに近づき、何と報酬を受け取ったではないか。そうだ、これはあの若者を裏切らせるための芝居=偽装だったのだ。暴力には暴力を、謀略には謀略を、ということか。
こうして、FBIは若者から事件の詳しい情報を引き出した。
若者の供述によれば、事件の夜、3人の若い公民権運動家に最初の銃撃を浴びせたのは、ヒル保安官補で、彼がユダヤ人の青年を射殺し、直後にベイリーが残りの2人を銃撃したという。そのあとで、若者を含む仲間が一斉に車に向かって銃を乱射したのだという。そして、この襲撃を教唆したのは、地区のKKKの首領のタウンリーだった。
彼らは、襲撃ののち、車を沼に沈め、3人の死体を、KKK仲間の農場の一角に埋めたという。
ただちにFBIは、ある農場の丘の麓の土地を掘り返して、3人の遺体を発見した。
殺戮事件の被害者と車が発見され、犯罪の手口と状況を示す証言を得たFBIは、この町のKKKのメンバーを訴追し、首謀者タウンリー、殺害の実行犯のヒルとベイリーは有罪の判決を受けた。
事件の刑事判決が出たのち、アンダースンはふたたびその町を訪れた。ヒル夫人に会うためだ。
事件から数か月がたっていた。彼女はまだ痛々しい傷跡が残ってはいたが、傷害はほとんど治療が終わって退院して、自宅に戻っていた。ヒル保安官補の逮捕後まもなく、ヒルとの離婚が成立していた。
自宅の内部の様子は、元夫の暴虐と破壊によって荒らされたままになっていた。
女性は「この町にとどまるわ」と毅然とした態度でアンダースンに言った。自宅を修復し、美容院を再開するつもりだった。その美容院は、白人だけでなく、有色人種をも大切な顧客として迎えることになるだろう。町のあちらこちらで、人種のあいだの隔壁が除去されていく動きの先駆けになるだろう。
けれども深南部社会では、人種差別とこれにともなう暴力や威嚇事件はその後も根強く生き残り、社会の片隅に追いやられてはいるけれども、21世紀のいまでも訴訟や刑事事件が見られるという。