宮崎駿が描く物語 目次
宮崎駿の作品世界を考える
どんな要素に注目するか
主人公と登場人物@
主人公と登場人物A
風景や背景の描き方@
風景や背景の描き方A
風景や背景の描き方B
歴史的・社会的状況の設定
物語やできごと@
物語やできごとA
しゃれた会話シーン
アニメ作品と原作
ナウシカの世界

しゃれた会話シーン

読書家: 最後に、宮崎駿のアニメですごくいいと思うのは、セリフ、会話の仕方、内容がすごくしゃれています。そのへんはいかがですか。

歴史家: 「豚」で、ポルコとかつての戦友で今は空軍少佐になったフェラーリが映画館で交わす会話、これがじつにふるっている。

フェラーリ:「なあ、空軍に戻れよ」
ポルコ:「俺はファシストになるつもりはないね」
フェラーリ:「…今はなあ、国家や民族というくだらないスポンサーを背負って空を飛ぶしかないんだ」
ポルコ:「俺は、自分の稼ぎだけで飛ぶんだ」
フェラーリ:「空を飛んでも、豚は豚さ…」

  すぐれたパイロット(個人)にとって、国家や民族、国民なんてものは「くだらないスポンサー」にすぎない、という皮肉。権威や権力に物を言わせ、俸給で人びとをあれこれの陣営(国家)に囲い込む仕組みにすぎないというわけです。
  それと、ポルコが何を求めて空賊なんかをしているのか、ということがわかります。

絵描き: この作品のすべての会話がしゃれています。全部取り上げるわけにいかないから・・・1つだけ。
  こんな会話、素敵だと思いませんか。
  場面は、ポルコを空戦で破って意気揚々のカーチスがハリウッドから招待状をもらって、マダム・ジーナを連れてアメリカに帰り結婚しようとして、庭園で彼女を口説くシーンです。
  ジーナがミラノから帰還したポルコが、彼女が所有経営するホテル・アドリアーナの上空を旋回するのを見て、彼女が愛そうとしているのはポルコだという素振りを見せます。

カーチス:「その相手って、あいつがぁ?!」
ジーナ:「あなたのお国と比べて、ここでは人生ってものがちょっと複雑なの。アメリカへは、ボクひとりでお帰りなさいね」
カーチス:「ええー、……ボク……?!」

  ひたすら強さ、そして出世、そして勝ちや見栄えにこだわるカーチスをてんで子ども扱いしています。

読書家: 一番いいところをさらわれましたね。ほかに、こんなものもありますよ。今の会話のシーンの少し前、アドリア海に出たポルコとフィオが給油に立ち寄った海辺のバーでも会話です。
  アドリア海沿岸では不況が長く続き、稼ぎ手はみんな出稼ぎに出てしまい、残った職業はファシスト政府の軍か王権派の軍くらいしかない、と店の常連たちは嘆きます。飛行艇乗りもどんどん減っているようです。
  つまり、深刻な世界不況のなかで、もはや個人が自由に空を飛べる時代が失われてしまった、ということです。

ポルコ:「さらば、わが青春と放埓(ほうらつ)の日々よ、ってことか」
常連のじさん:「それ(今のことばの作者は)、バイロンかい?」
 ポルコ:「いやっ、俺さ」

歴史家: バイロンというのは、ヴィクトリア女王時代のイングランドの詩人で、ギリシャのオスマントルコからの独立闘争に飛び入り参加した熱血漢というか、情熱家です。
  しかし、世界覇権を握ったブリテンの権威に酔いしれていて、ブリテン帝国の栄光を「古代ローマ帝国」にたとえたり、ヨーロッパ人優越思想でもってアジアに向き合ったという側面(アジア人としては鼻もちならない点)はあります。
  「ロマン主義者」といわれていますが、「帝国主義者」とレッテル張りしても、あながち間違いではないでしょう。

読書家: まだ語り足りないことは山積みですが、今回はこの辺でおひらきにしましょう。

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