原作 宮崎駿『風の谷のナウシカ』(徳間書店、A4 上下2巻)
考えるテーマ:
ナウシカたちが生きる世界とその生き物たちを考える。現代の地球環境や人間の文明と引き比べながら、ナウシカたちやそのほかの生き物たちが生きる環境や生態系を考える。
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アニメ映画《風の谷のナウシカ》は、原作に描かれた遠大な物語のうち、ほんの序章にすぎない部分を独立のアニメ作品に組み換えたものにすぎません。
波乱に富む出来事のほんの序曲、あるいは導入部=入り口を描いたところで、アニメの物語は終わっているのです。
残念ながら、ナウシカたちが生きる世界と生き物たちのことは、それだけではほとんどわかりません。
とくにその世界に生き残った人間たちのあいだの大戦争は、原作では中心的なテーマを語る場であるにもかかわらず、アニメでは描かれません。たぶん、あまりに長大なので、アニメにはできなかったものと思われます。
原作では、この戦争のなかでのナウシカの戦いと苦悩が主題となっているのに、たいへん残念です。
そこで、ここでは、原作の物語全体のなかに映画作品の物語を位置づけて比較したうえで、宮崎駿が描いた「ナウシカの世界」を考えてみましょう。
今回は、「現実世界」の実際の歴史ではなく、フィクションのなかの出来事と歴史を扱います。ナウシカたちが生きる世界を原作から読みとろうと思います。
さて、物語の舞台は、高度工業文明によって環境と生態系が崩れ去り、文明が大破局を迎えた後の世界です。
大陸または亜大陸の主要部はほとんど「腐海の森」に覆われ、人類は、腐海のほとりで、砂漠や「酸の海」に取り囲まれた片隅で、かろうじて生き残っているのです。
それは、環境破壊や気候変動によって生存を脅やかされている明日の私たちかもしれないし、あるいは私たちの世界のすぐ隣にある「パラレルワールド」かもしれません。
それにしても、現存する私たち人類による地球の環境・生態系の破壊や気候変動などについての危機感が色濃く反映されていることは間違いないでしょう。
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