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これは「のだめカンタービレ in Europe」という特集版ヴァージョンのドラマで描かれる。
のだめは、エリート教育としての「正規の音楽修練」を経てこなかった。そのため、コンセールヴァトワールでは、極め付きの落ちこぼれになってしまった。
そして、自分の目標を見失いかける。
オクレール教授もまた、のだめの指導方針で深い悩みにぶつかる。
素質と直観(直感)に頼る部分が多すぎるのだめ。
けれども、オクレールとしては、彼女の素質・才能は見放すにはあまりにも惜しいものだったからか。これまでは、音楽畑で正規のエリート教育を受けてきた、洗練されたピアニスト(の卵)ばかりを指導してきたからだろうか。
その彼にして、ようやく見つけた逸材が「のだめ」。ときに眩いばかりの技術と表現力、そして心に訴えかける何かを持っている。
悩みぬいて、オクレールはのだめの練習の指導に臨んだ。
のだめが弾くピアノの上には彼女のノウトブック(まさに音符が書き込んであるという意味で、文字通りノウトブック)が置いてあった。
そこには、のだめが創作したピアノ曲の楽譜があった。オクレールは、「面白そうな曲だね」と言って、その楽譜を見ながらピアノを弾き始めた。
そして、曲想を模索するように演奏しながら、のだめに曲のイメイジを尋ねた。
のだめは、生き生きとして曲の構想や小節ごとの調子やテンポを説明して、そこで描かれている情景・心象を語った。つまり、作曲者としての「のだめ」が伝えたい曲のメッセイジとか意味合いを。
そこで、オクレールは問題を提起した。
「ほら、君だってこの楽譜をつうじて伝えたいメッセイジがあるだろう。同じように、課題曲の作者にだって伝えたいメッセイジを楽譜に込めたはずだろう。それを読み取らなければ、曲のあるべき演奏はできないのではないかな」と。
実に見事な対話である。
のだめは、自分の問題として切実に受け止め、理解した。その作曲家が生きた時代や音楽界の動向、そして作曲家の方法論や構想をアナライズ(アナリゼ)することの意味、必要性を。
のだめの性格と才能が、千秋をはじめ、すぐれた仲間や指導者を引き寄せるのか。まさにファンタジーの世界。若者の成長譚としても楽しい。