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ただし、のだめは、自分が突き詰めるべき課題について、つねに「受け身」というわけでもなさそうです。攻撃的なほどに積極果敢なところもあります。
そして、他人の音楽性とか素質、才能についても、きわめて敏感で受容力があるのです。
好きになった千秋につきまとうことも含めて、彼女は自分の心にものすごく素直です。というよりも、自分の心にしか目がいかないで、相手の気持ちについて、あまり気が回らないこともあります。
のだめは、Sオケの指揮ぶりやシュトレーゼマン指揮のオケと千秋のピアノコンチェルト、R☆Sオケの指揮ぶりを見続けます。そのなかで、千秋の才能やポテンシャルの高さを認識していきます。
だから、彼の海外への飛躍にとって障害となっていた「飛行機恐怖症」の克服に自ら取り組むことを決心します。
それは、のだめ自身も千秋を追いかけて海外留学するために、訓練に打ち込むという決心をともなうものでした。相手をさらなる高みに進める手伝いをする。それとともに、彼についていくために自分を高めようとする。泣けますね。
なかでも、R☆Sオケの演奏会で、千秋のステイジを見つめる「のだめの眼差し」、流れ落ちる涙。そこでは、上野樹里の個性と演技がさえています。
かつての日本の恋愛劇のように、「男を育てるために自分は身を引く」というような意思決定ではないところが、実に好ましいですね。
「あなたは飛び立て、私も奮い立つから!」という女性の自立的で戦闘的な姿勢が、すばらしい。いまどきの女性は、こうでなくては。
ただし、あの催眠療法では、試しに北海道に空の旅行をしてみろと暗示をかけながら、カニやウニ、メロンなどをちゃっかり買わせる暗示までかけるあたりは、なかなかしたたかで可愛い計算高さがほの見えます。
この作品では、泣けるシーンでも、必ず笑ってしまうオチを盛り込むところが、センスの良さかな。
それで、千秋がR☆Sオケの将来を理由に、シュトレーゼマンからのヨーロッパへの誘いを躊躇すると、福岡弁丸出しで「ケツの穴が小さい男だ」とたしなめ、挑戦状を突きつけ叱咤激励します。女はこれくらい強くなけりゃあ。
ところで、2人は甘い感傷に浸ることなく、互いに相手に「あなたの課題はこれでしょう!」と提示します。それぞれ音楽家として自立しようとしています。
これも、音楽家として人生をともに歩くための責任の取り方、引き受け方でしょう。それぞれがプロの音楽家として自立しながら、ときには意見を戦わせながら、支え合うわけです。泣けますねえ。今風に。