そのとき、観客席に来て見聞していたシュトレーゼマンがステイジに上がってきて、千秋に指揮台から降りるように命じて、自分が指揮すると言い出しました。
千秋は反発しながら、「あのエロ爺いめ」と思いながら、それではお手並み拝見を決め込もうとしました。
その千秋にシュトレーゼマンは指摘しました。
「千秋、君は一番大事なことに気がついていない。音楽と向き合うことは、音楽を心から楽しむことだということを…」と。音楽に正面から向き合うことは、すなわち心から楽しむことだ、というのです。
意味深いですねえ。この言葉。
かくして始まったシュトレーゼマン指揮のSオケの交響曲第7番。
マエストロのカリスマのせいでしょうか。シュトレーゼマンは、楽団員全体を催眠術にかけたみたいに「乗せて」しまったのです。
オケのメンバーは、そのときの技術水準では最高のパフォーマンスとまとまりを見せました。
千秋は深い感動と衝撃を味わいました。これが巨匠の本物の指揮なんだだ!、と。
「音楽を、人を尊敬して、それが自分に還ってくる」と。
翌日、千秋は何が何でもシュトレーゼマンに転科を認めさせようと、何通もの転科願書を持参して、巨匠に掛け合いました。マエストロは、転科は認めないが弟子とすると返答しました。ライヴァルのヴィエラにこんな優秀な若者を弟子に取られてたまるか、という意識もあったのでしょう。
この一連の場面が一番印象的ですね。
そして、この巨匠の指揮する第7番の演奏が、そのまま、あのマングースが踊る間奏曲の幕間に移行するなんて。
ああ、このセンス! すごくいいですねえ!
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