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伊武雅刀が演じる中華店「裏軒」のオヤジ、峰龍太郎の父親。
私は、主人公たちの次に大きな存在感を感じます。
学生街にある中華店のオヤジでしかないのですが、このオヤジただものではないという気がします。
なにしろ、龍太郎にヴァイオリンの素質があると知ると、とにかく音大まで進学できるようにそれなりに(甘やかしながら)英才教育を施したくらいだ。
もっとも、漫画原作によると、母親は店の近所一帯の土地を所有する大地主=大金持ちらしいので、スポンサーは母かもしれません。
さて、このオヤジは、店の常連教授連の会話(内緒話)から音楽業界の情報を仕入れ、この世界についてはかなりの「通」であるようです。
なにより、あのオーヴァーアクションの「くさい演技」が好ましい。
息子と仲間たちを温かく見守りながら、さまざまな支援を何気なく、ごく当たり前におこないます。じつに、親馬鹿で、かつ、できたオヤジ、練れたオヤジさんです。
このドラマでの狂言回し役の1人で、スパイスを効かす役回りです。
このオヤジ、なんと千秋の注文に応じて、クラブサンド・クロワッサンをつくって出してしまう、広い芸域を誇ります。やがてクリスマスケーキまで製造販売してしまいます。なんという悪乗りオヤジでしょうか!
そして、この中華店、音大の学生(とりわけ千秋やのだめを含めて)龍太郎の仲間のラウンジになっています。
やがては、Sオケ、さらにはR☆Sオケの事務所兼ミーティングコーナーになっていきます。若い音楽の英才、クラシック音楽雑誌関係者のたまり場になっていきます。
音大とか芸術関係の大学の近所の喫茶店とかは、こんなふうなのでしょうか。だったら、すばらしい。
そんなところにたまには行ってみたい。私は門外漢だが、店の片隅に座りながら、若者たちの会話に耳を済ませてみたいものです。
そういえば、もうすでに30年以上も前になるが、東京の御茶ノ水駅から神保町に下っていく道なりには、いくつも喫茶店がありました。そのなかに、学生オケとかブラスバンドなどの音楽グループのたまり場がありました。
まさに「学生街の喫茶店」でした。御茶ノ水から離れたいろいろな大学からも学生たちが来ていました。
で、店のBGMとして、ヴァイオリンコンチェルトなんかがいつもかかっていました。
ところが、そういう雰囲気は今から20年ほど前には、あの街からすっかりなくなってしまっていました。
そういえば、その頃、お茶の水界隈を、日本のカルティエ・ラタンと呼んでいましたっけ。
パリ中心部(ソルボンヌ界隈)にある街区で、その昔はイタリア出身者――多くは神学者だった――たちが留学のために集住していたので、「ラテン人の街区: Quartier Latin 」と呼ばれたといいます。
このドラマは、そんな懐かしい記憶を呼び覚ましました。