のだめ…ヨーロッパ編 目次
果敢な挑戦に拍手!
名曲を散りばめた贅沢
見どころと物語
題材としてのコンクール
物語としてのコンクール
ライヴァルたち
2つの方法論の対決
ライヴァルを過剰意識
コンクールの評価尺度は多様
本選での挑戦
本選での挑戦
のだめカンタービレ 別の記事
のだめカンタービレ
のだめカンタービレが描くもの
物語や人物設定などの考察
音楽がテーマのサイト
オーケストラ!
マダム・スザーツカ
Office-Townwalkのサイト
信州まちあるき
雑学・教養ブログサイト
コーヒーものがたり
数学を楽しむ 学びの扉
英語への道案内

物語としてのコンクール

  指揮者コンクールのプロットは、実に珍奇な状況で始まる。
  なんと、千秋が出場する予選(1次〜3次審査)の日程とアニメフェスティヴァルとが重なるというのだ。このフェスティヴァルには、アニメ・オタクやコスプレ・フリークが押しかけるのだが、アニメ・オタクののだめとフランクが、千秋が参加する指揮者コンクールをそっちのけにして行きたがる。
  格調高いクラシック音楽の厳格なコンクールとオタクのイヴェントとが重なり、しかも、のだめの心は最初そっちに傾いている。
  のだめの内部では、オタクのイヴェントの方が、指揮者コンクールよりも位置づけが高いといというわけだ。
  おいおい、いくらなんでも、それはないだろう、というギャグマンガならではの設定。実写映像だと、なおのことその落差は大きくなる。

  ところが、この設定は、真一とのだめが、コンクールの開催地に向かう列車を待つ駅で、強敵ライヴァルとなるジャン・ドナデューと恋人のカップルと出会うことで、すっかり趣を変えてしまう。
  とくに、のだめは、ジャンの恋人「ゆうこ」の傲岸不遜、挑発的な態度に反発して、千秋真一にどうしても優勝してほしいと願うようになる。それまでは、「世間のせまい」のだめは、太平楽に、千秋の圧倒的な才能と努力に敵う相手なんかいないと思っていたのだが。

  というわけで、アニメ・イヴェントと指揮者コンとの位置づけ関係がひっくり返ることになった。
  千秋真一にとっても、ジャン・ドナデューは大きな脅威=ライヴァルだ。というのも、ジャンはベルギーの国際指揮者コンで優勝していて、しかも、あのセヴァスティアーノ・ヴィエラの弟子なのだ。心中は複雑。平穏であろうはずがない。
  こうして、開催地への旅の出発点で、コンクールでの波乱を予感させる「遭遇=出会い」が待ち構えていた。衝撃的(笑劇的)なライヴァルとの出会いのシークェンスで、視聴者をドラマに引き込む、この手法は見事だ。

ライヴァルたち

  さて、予選が始まる。
  最初の課題曲の選定(くじ引き)の会場で、真一は日本人の挑戦者、片平と出会う。真一とジャンとのせめぎ合いに、独特の存在感で割り込むライヴァルというか仲間というか。その独特の存在感は、指揮の方法論や音楽家としての姿勢にも現れる。
  片平は、指揮者コンクールでこれまで何度も敗北を味わった。30歳の今年は、若手指揮者としては最後のコンクール挑戦だという。だが、失敗から学んだ経験の厚みとか、音楽=指揮者を続けられるだけでも光栄だ、と考えている謙虚な姿勢、そしてオーケストラの持つ個性に自分の個性をうまく適応させる柔軟さを持っている。

  弱冠22歳でコンクールに出てきた老成・早熟の天才、千秋真一(そしてジャン)と明白なコントラスト。片平の出現で、若手指揮者のスタイル(あり方)のスペクトルにぐっと幅と奥行きが出てくる。もっとも、私たちはすでにフランツ・フォン・シュトレーゼマンという巨匠指揮者の登場で指揮者のイメイジが大きく揺らいでいるのだが。
  物語に奥行きと厚みをもたらす、このプロットは(原作は見事というほかない!)ドラマの展開に期待を持たせて、これまた視聴者を惹きつける。

  さて、若手指揮者のコンペティションは、結局のところ、指揮の具体的な方法をめぐっての音楽観や方法論の競争ということになる。もちろん、見せ方、聞かせ方、表現技法の優劣ということも問題(評価点)にはなるだろうが、そういう技法的なものが全体として、あるいは究極的に何を表現(パーフォーム)しようとしているのかが中心的な論題になるのだろう。

次のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ
ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界