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総合ジンテーゼ」としてのオーケストラ

  ところで、多様な楽器(音域や音色)を受け持つ多数の人間集団が奏でるオーケストラは、楽譜どおりに演奏しても、内部にさまざまな差異や誤差を含みこむ「有機的な総体」をなすという。
  NHK・FMのクラシック番組で、ゲストの有名な指揮者がこう述べていた。
  どんなに楽器を調律・調整しても、実際に会場(聴衆が参集したホール)で演奏するときには、それぞれの楽器の音程・音域・音色には「誤差」が出る。そのときどきの(室内大気、楽器そのものの)温度や湿度の差や変化、壁や天井の反響し具合の微妙な変化は、個々の楽器の音程や響く具合をわずかに変化させる。
  だが、それはオーケストラ演奏にとってのマイナスではない。むしろ、そうした「誤差」や「差異」を含みこんだ全体となることで、演奏は厚みと広がりを増すことになる。
  オーケストラは、ジャズほどではないにしろ、ライヴ演奏のセッション(相手に合わせた棲み分けと共存)である。演奏家たちは、たがいに他の楽器あるいは同じ楽器パートのの別の奏者の音を聴き取りながら、演奏する。そのとき、他者の楽器の微妙な「差異」や「誤差」を聴き取り、それに合わせて、「今日はこう弾こう、こう吹こう」などと微妙な調整をする。
  そうなると、微妙な「誤差」や「差異」が絡み合って、すばらしい幅と厚み、奥行きのある音響世界・音楽がそこに生まれるということなのだろう。
  オケは生きた全体なのだから、と。

  そういえば、ヴァイオリンの音波の波形をオシロスコウプで見たことがある。
  大局的には、ヴィヴラートにより上下する周波なのだが、1つの波が上昇しきると鋸のような細かなギザギザ波が上下する平原の形になる。台形の上底が鋸歯状のさざ波を描く。そのなかには「倍音」が含まれて、共鳴によって音量が増幅が増幅されることもある。
  というのは、ボウイング(弓が弦をこすること)で、弦に微細な振動を生じさせるからだ。馬の尾の毛を素材にしたボウ=弓は、いわば濃密なブラシにようになっている。その毛の1つひとつ(1群、1群か?)が弦を揺らすのだ。
  そのさざ波の周期は、おそらく何百分の1秒以下の細かさだ。


  オケのヴァイオリン奏者は少なくとも20人前後はいる。それぞれのヴァイオリンが、そういう微細で高周波数の振動を奏でるわけだ。
  したがって、この小さなさざ波の波形がシンクロすることはまずないだろう。もとより、より大きな波はシンクロしやすいが。
  ところが、オケでは、このさざ波のズレ加減が、ヴァイオリン部門の音響の広がり・奥行きを形成するのだという。そして、ごく稀にヴィヴラート次元の小波やさざ波のいくつかがシンクロ=共鳴・共振する。すると、音波はその部分だけ増幅して、個々のヴァイオリンでは生み出すことができない次元のヴィヴラート(個々のヴァイオリンのヴィヴラートよりも2回りくらい大きな波を描く)をもたらす。

  しかも、オケにはヴァイオリンのパートだけでなく、多数の管弦楽器パートがあって、それぞれ固有の音色(空気振動波形)を生み出す。オケでは、そういう大小様々の振動波形が輻輳し合成されていく。
  もちろん、そんな音響を、素人の私は聞き分けることはできない。だが、指揮者や演奏家たちはきちんと個々の楽器パートの音色と全体の合成された音形を聴き取るという。

  それでも、CDをステレオで聴いているときに、「ここの響きがすごく美しいなあ」と感じるときがある。その部分を何度も繰り返して聴き続けると、いくつかの音階部分・パートに分析して聴き分けるようになる。和音の響きと各パートの旋律との区別と調和が、わかるようになる。
  そのときに、ことに弦楽器では絡み合ってうねるような音の盛り上がりを感じる。たぶん、それが、あの共鳴=シンクロナイズ部分ではないかと思う。
  たった1つのフレイズの和音・音響のパーツ区分と合成を聴き取るのに、私は何回もの聴き取りが必要で何分もかかるのだ。ところが、演奏家や指揮者は瞬時にそれをやりながら、全体の調整・調和を組織できるのだ。しかも、音階・音符(強弱やリズム、テンポも含めて)を脳裏に描きながら。
  すごい!
  音の質や高さ、リズムやテンポを区分して聴き取る能力は、指揮者は犬とか野生動物並みなのだ。その点については、音楽家は野生動物としての本能・能力を引き出し、研ぎ澄ますのかもしれない。
  イヌ科やネコ科の動物は、森や草原のなかで混じり合った風の音や多数の動物の鳴き声の混合体のなかから、獲物や警戒すべき相手の音を聞き分けるという。

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