デロスを夜の帳が包む頃、開園時間が終了し、訪問客はホテルなどの屋内に引き上げる。屋内での「遊興」は許されているようだ。
戸外には生きた人間はいなくなる。屋外にいるロボットは、やがて、制御コンピュータのOFF信号で停止する。
だが、「営業」を終えた舞台では「西部の世界」でも、「中世の世界」でも、「ローマの世界」でも、屋外や人気のない空間には、いくつもの壊れたロボットが横たわっている。開園時間中に、現代人の欲望や破壊衝動のままに、ガンファイトとか剣や槍による決闘、あるいは争乱などに巻き込まれて「殺された」ロボットたちだ。人型ロボットだけではなく、馬や犬などの動物の「死骸」も転がっている。
開園時間終了後、こうした「死体」をコントロールセンターの係員と回収車が夜の闇に紛れて、収容していく。回収されたロボットたちは、コントロールセンターの検査修理用工房に運び込まれる。そこで、ロボットたちは、科学者やエンジニアたちによって、破壊の状況を調査され、部品を交換されて機能を回復し、さらに皮膚などの外傷を跡形もなく修復されるのだ。
そして、翌朝の開園時刻までには、ふたたび「持ち場」に配置されるのだ。
だが、最近、完全に修復できないロボットがわずかずつだが、増加しているという。壊れた部分の部品を交換しても、以前のように「正常に」機能しなくなるのだ。ごくわずかずつだが、エラーや機能の変化が進んでいるようだ。
というのも、これらのロボットは、完全に自動化された製造システムでつくられていて、人間はこの自動装置=ロボットのプログラムの外形的チェックにしか携わらないからだ。しかも、そのプログラムすら、いまでは、コントロールシステムを管理するスーパーコンピュータが設計している。つまりは、コンピュータ=ロボットが、自分のプログラムを設計・イノヴェイションしながら、デロスのロボットたちを製造しているのだ。
こうして、ロボットの運動メカニズムや機能の中核的な部分については、人間はもはや詳しく知ることができなくなっている。そして、外形的に、マニュアル化された修復手順や交換部品の取り付けや検査手法を提示されて、そのとおりに処置しているだけなのだ。
人間がコンピュータシステムの指示命令に従う「ロボット」のようになっているわけだ。
ロボットの製造や修復のノウハウの核心は、今ではすっかり「ブラックボックス」になっている。なぜ、いかにして、それが「正しい修復」なのか、人間には知る由もない。ただ、「正しいだろう」と信じているだけだ。これまでに、取り立てて問題が起きなかったから。
だが、コントロールセンターの所長は、修復室で、周りのエンジニアに聞こえよがしに呟いた。
「最近のロボットはロボット化された機械装置によって製造されていて、われわれ人間にはその仕組みや動きの原理が理解できていない。だから、修復するときいにも、本当にそれが正しいやり方なのかわからない」と慨嘆している。
つまり、デロスで作動しているロボットの仕組みや制御プログラムが日に日に自動的に進化していき、いよいよスーパーコンピュータに依存するようになり、ますます人間による制御のキャパシティが狭まっているのだ。