さて「西部の世界」では、ピーターが黒いガンマンから逃げ回っていた。ガンマンの尾行をまいて隠れても、あきらめずにガンマンは追いかけてくる。
不意打ちを狙って身を潜めたピーターは、はずみで銃を取り落として失ってしまた。そうなれば、ただただ逃げ回るしかない。
アンドロイド(人型ロボット)が、逃げても逃げても人を追いかけくる、この追い詰められる切迫感は、「ターミネイター」でも描かれている。が、その原型は、少なくとも「ウェストワールド」に起源があるといえる。
ピーターは、ウェストワールドを抜け出て、中世の世界のアリーナ(王宮)に出た。そこでは、人間もロボットもすべて「死に絶えて」いた。ところが、ガンマンはひたひたと追いかけてくる。
次にピーターは、ローマの世界に逃げ込んだ。そこにも、動かなくなった、数多くの人間とロボットが横たわっていた。ピーターの行く手には、どこでも「死体」だらけだった。
動いているのは、ピーターと黒ずくめのガンマンだけだった。
ピーターは泉水の近くのマンホールから、地下に降りて、ついにコントロールセンターに逃げ込んだ。
センターの各室では、係員や管理要員がやはり全員が死に絶えていた。
だが、ガンマンの足音が近づいてくる。ガンマンは、人の足跡を識別追跡する視覚センサーを備えているので、ピーターの行く先を正確に突き止めることができるようだ。
しかし、視覚そのものは、人間に比べて格段に解像度が劣るようだ。ロボットは、蛇のように、人間や生物の輻射する熱、つまり赤外線や遠赤外線を感知して、その居場所を特定するようにできているらしい。
次にピーターが逃げ込んだのは、修復検査室だった。いくつもの壊れたロボットが、作業台の上に横たえられていた。
その向こうの作業机の上に劇薬の瓶が並んでいた。ピーターは、そのなかから塩酸の瓶を手に取った。そして、壊れたロボットを装って、1つの作業台の上に横たわって、ガンマンを待ち伏せた。
追いかけてきたガンマンは、ピーターが横たわっている作業台を行き過ぎようとして、輻射熱を感知して、振り向いた。その瞬間を狙って、ピーターは塩酸をガンマンの顔に浴びせかけた。塩酸の激しい作用でガンマンの顔は焼けただれた。そして、方向を失ってさ迷うことになった。
その隙にピーターはコントロールセンターから逃げ去った。ふたたび中世の世界の王宮に逃げ込んだ。薄暗い玉座の間に入っていった。そこには、あの初老の男が扮した、冒険家の貴族の骸があった。彼を串刺しにした黒騎士は、玉座に倒れこんで機能停止していた。その隣の、女王の座には、初老の男の妻が、やはり死んでいた。
ピーターは、玉座の後ろに回った。そこにガンマンが現れた。彼は、生体の熱輻射を感知して、即座にピーターの居場所を突き止めた。だが、ピーターが、壁や柱の松明に近づくと、その熱輻射の赤外線の干渉を受けて、人間の身体から発する熱は、ロボットのセンサーからは感知できなくなってしまう。
ガンマンは、ピーターの居場所を「見失った」。
ガンマンの戸惑った動作から、ピーターは、炎のそばにいれば、ガンマンの追跡から逃れられそうだと察した。そこで松明の柄を抜き取って、やみくもに近づいてきたガンマンの帽子や服、身体に火をつけた。ガンマンの全身は、またたくまに激しい炎に包まれた。そして、逃げ惑い倒れこんだ。
その間にピーターは、王宮のさらに奥に進んだ。そこには牢獄があった。若い娘が両腕を縛られて牢の格子にくくりつけられていた。彼女はまだ生きていて、助けを求めていた。
ピーターは娘を助け出し、抱き抱えて、牢の外に出した。ところが、彼女に水を与えたところ、頭部から火花を出して停止してしまった。電子回路がショートしたのだ。彼女はロボットだった。
驚いたピーターは、近くの階段を登り、「死に絶えた」女性型ロボットを見つめた。
と、そこに黒焦げになったガンマンが現れ、もがきながら倒れ込んだ。その顔はすっかり焼け落ちてしまって、黒い空洞になっていた。倒れたガンマンは、「痙攣」を起こしてついに「死滅」した。
階段に腰を落として、呆然とするピーター。驚愕と安堵からか、焦点を失ったピーターの顔。その顔を映すシーンで、この作品は終わる。