近未来のアメリカの砂漠地帯。最先端の科学技術を誇るレジャー施設の運営会社が西部の砂漠地帯に巨大なアミューズメントパークを創出した。ロボットサイエンスを駆使して、訪問客に快楽と娯楽を提供する。その名は「デロス」。
デロスはアミューズメントパークに、現代人の快楽欲望を満たすための「3つの世界」をつくり上げた。「ローマの世界( Roman-World )」 「中世の世界( Medieval-World )」 「西部の世界( West-World )」だ。
デロスといえば、エーゲ海にあるキュクラデス諸島にあるデロス島――数々の古代遺跡やアポロン信仰で有名――が想起されるが、とくに関係はないようだ。
ローマの世界は、古代ローマ帝国の「爛熟期」「退廃期」のイメイジでつくられた世界で、ローマが帝国支配レジームをつうじて地中海世界全体から集めた資源を浪費する都市空間が演出されている。そこを訪れた観客は、酒池肉林を飽食し、美女や美男(快楽用ロボット)と戯れることができる。
中世の世界では、中世ヨーロッパの「宮廷社会」が演出されている。訪問客は、そこでは王侯や有力な宮廷貴族、騎士、女王などに扮して、おとぎ話のような生活を営む。ときには、騎士どうしの決闘に挑んだり、村娘、町娘、さらには浮気な貴族の妻との恋愛を楽しんだりすることもある。
西部の世界は、まさに「西部劇の世界」。1880年代の西部の田舎町を再現してあるが、実際の歴史とはかけはなれた、現代人の願望の世界だ。客たちは、めいめいが好みの銃を携えて、西部の町や草原、砂漠を動き回る。酒場での乱闘、銃による決闘、銀行強盗など、好き勝手に暴れまわることができる。町のサルーンには、娼婦館さえあって、そこにはこれまた快楽用の美女ロボットが控えている。
つまりは、現代人の欲望や快楽願望に合わせて運営されたテーマパークなのだ。
映画の冒頭では、このデロスを宣伝するプロモウション映像が流れる。このパークへの訪問客へのインタヴュウを交えて、3つの世界の概要とか魅力を説明する映像だ。
これによって、物語が展開する舞台のおおよその特徴がわかる。
このアミューズメントパークに旅をする主人公であり、狂言回しをも兼ねるのが、ピーター・マーティンとジョン・ブレインの2人。ともに30代はじめの若い男性。ストレス解消のためにやって来たようだ。ブレインは、以前にここ(ウェストワールド)に来たことがあり、2度目の訪問だ。
2人は、いかにも近未来型といった飛行機に搭乗して、砂漠のなかのデロスに向かう。この飛行便以外には、デロスを訪問する交通手段はないように見える。飛行機の客席のあいだを、ミニスカートの若い女性(フライトアテンダントか)たちが歩き回って、飲み物や食べ物をサーヴィスしている。
はじめて訪問するピーターは、ジョンにウェストワールドの様子をいろいろ尋ねている。西部劇映画のような「ガンファイティング(銃の撃ち合い)」をしてみたいのだが、不安がいっぱいなのだ。
この2人のほかに目立つのは、初老の夫婦と中年の眼鏡の男性。初老の夫婦は、中世の世界に行って、女王や冒険騎士のロールプレイングを楽しもうと思っている。眼鏡の中年男は、西部の世界でいっぱしのガンマンを気取ろうと張り切っている。
やがて、飛行機はデロスの入場エントランスに到着する。そこで、訪問客は1人ひとり予約個人情報との照合を受けて、3つの世界のうちから、それぞれ好みの訪問先を選んで、コース別の電気自動車に乗り込む。
この受付・案内センターで客に対応する係員は、全員がロボットだという。外観は人間とまったく同じで、見分けがつかない。違うのは、手の皮膚だけだという。皮膚にわずかに「たるみしわ」があるのだ。
ロボットだから、案内係の女性たちはすべてがとびきりの美女だ。顔やスタイルを誰にも、いやとくに男性から好まれるように成型してあるのだ。