さて、マーティンとブレインが次に訪れたのは、なんと、いや、やはりというべきか娼婦館だった。
娼婦館には、まだ飛び切りの美しさを残している中年の「女将」がいた。彼女は、娼婦斡旋を業務とする専用ロボットだった。ここに来る訪問客が、何を求めてくるかを熟知し、19世紀末の西部の粗野とやぼったさを交えつつ、彼らを巧みに扱うことができる。
彼女は、2人に、そこにいる「可愛い子ちゃん」たちのなかから 好きな子を見繕って、ホテルに連れていってちょうだい、と言った。
マーティンとブレインは、それぞれ美女(ロボット)を1人ずつ連れてホテルに戻った。美女2人は、男性の性欲充足専門のロボットで、このウェストワールドの若い独身の女性ロボットには、だいたい、その種の機能がプログラムしてあるらしい。
で、お楽しみの一夜が明けた。
朝、ピーター・マーティンは、西部風の風呂に入って身体を洗っていた。
そのとき、ジョン・ブレインは洗顔や髭剃りなどの朝の支度にいそしんでいた。そこに、あの黒ずくめのガンマンのロボットが侵入してきた。ガンマンは銃を抜いてブレインを威嚇して追い詰めていく。
その物音を聞きつけたマーティンは、浴室をそっと抜け出し、銃とガンベルトを手にして、ブレインの部屋に忍び寄った。ドアを開けてみると、黒のガンマンがジョンを追い詰めている。
ピーターは、部屋に入り込むと、銃を構えながらガンマンに銃を捨てるように命じた。が、ガンマンは聞き入れず、ピーターに銃を向けて発砲しようとした。ふたたび、ガンファイトに持ち込もうとしたのだ。
今度は、ピーターは躊躇することなく発砲した。ガンマンは撃ち倒されて、窓を突き破って街路に落ちていった。
とはいえ、デロスのロボットたちの動き方に少しずつだが、変化が生じ始めた。
ピーターとジョンは、まるで映画の場面のように、スリル満点の大冒険、大活劇を楽しんだ……かに見える。だが、このできごとは、客を楽しませるための筋書き=芝居だったのだろうか。
結果的には、ガンマンの銃は人に向けて発射されることはなかった。決闘でのピーターの勝ちは、予定通りだった。しかし、ガンマンの行動は、敵として狙いを定めた相手に執拗に迫っている。しかも、今度は不意打ちだった。必ずしも、客の要望に沿った動きではない気配も見える。
むしろ、ガンマンロボットのリターンマッチへの願望らしきものが、蠢き始めているかのようだ。もちろんロボットに意思や願望なんかはあるわけがないのだが。
ガンマンの不意打ちを退けて、得意満面のピーターとジョン。
ところが、ウェストワールドの町の保安官は、正当防衛でガンマンを撃ち倒したピーターを、問答無用で殺人罪容疑で逮捕して、保安官オフィスの牢獄に拘束してしまった。保安官は、事件の状況については一向に考慮しないで、ガンマンを含めた自分たちロボットの側に正当性があるかのように判断している。
自分らを「人」と考え、その正当性を土台に法規を運用しているのだ。
中央制御用のスーパーコンピュータは、ロボットの1体1体にそれぞれ「固有の人格=個性」( personality )を与えたらしい。独特の意思や行動スタイルを。
この人格=個性は、初期プログラムの基礎の上に、このデロスでのロボットたちの「体験」記憶が素材になっているらしい。