ウェストワールド 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
デ ロ ス
ピーターとジョン
西部劇の町
ガンファイト
夜の闇の向こうで
コンピュータシステムの発達の陥穽
ふたたびガンファイト
自立化し始めたロボットたち
牢破りと逃避行
動揺する制御本部
ロボットの反乱――人間狩り
逃げ回るピーター
プロットの先進性
当時の日本のコンピュータ
アメリカのコンピュータ工学
テーマそのものについて
AIと人間

ロボットの反乱――人間狩り

  その朝も、一見したところ、平穏に始まったかに見えた。
 けれども、徐々にロボットの挙動不審が目立ってきた。
 コントロールセンターでは、現在の客が帰ったのちに、デロスのロボットの作動を一斉に止めて、制御プログラムとメカニズムの全面的なオーヴァーホールを実行することにした。そして、事故や事件が発生しそうなら、今日の営業中にも、緊急避難的に個々のロボットを停止させる方針を決めた。
 ところが、このような緊急即応体制を整えようとしたとき、中央制御用のスーパーコンピュータが「暴走」を始めた。
 コントロールセンターの各室の扉の開閉装置を勝手に制圧して、係員や管理要員を部屋ごとに分断し、閉じ込めてしまった。そのうえ、空気調整循環装置、換気・通気装置を操作して、彼らを窒息死させてしまった。
 人が死に絶えたコントロールセンター。

 3つの世界では、それまでは人に戦いを挑んでやっつけられていたロボットたちの復讐=人狩りが始まった。
 人との戦いの機能を持たないロボットたちは、描かれていない。が、最終的に人の形をしたものは、人もロボットも動かなくなったところを見ると、壊れてしまったのだろう。人に戦いを挑むロボットだけが、生き残ったわけだ。
 結局、デロスのロボット制御システムはウィルスに冒され、あるいはコンピュータ自身の暴走によって、人を攻撃し破壊する機能のプログラムだけが「生き残った」ことになる。

 「西部の世界」では、ピーターとジョンの前に、あの黒ずくめのガンマン・ロボットが現れた。ガンマンは、2人にまたもやガンファイトを挑んできた。
 これもまた、筋書きがあらかじめ決められ、「人の勝ち」が決まっていると思い込んだジョンは、ガンマンに立ち向かったが、手もなく撃ち殺されてしまった。人の体温を感知して銃弾の発射を封じ込める制御メカニズムは解除されているようだ。  ピーターは逃げ出した。
 一方、「中世の世界」でも異常な事態が発生していた。
 冒険家の貴族に扮し、妻との逢瀬を楽しんでいた初老の夫。妻の話では、あの黒騎士がまたもや、この貴族に対して決闘を挑んできたようだ。ただし、あの黒騎士のロボットは、右半分の視力、右半分の運動機能が麻痺しがちなプログラムになっているので、右を攻撃すれば勝てるはずだった。
 宮殿の内部で、この貴族は黒騎士と遭遇した。当然ながら、剣を交えて激しい決闘になった。だが、黒騎士は右側への攻撃に素早く反応し、その右手、右半身の攻撃能力は完全だった。
 黒騎士の強烈な攻撃を受けて、初老の貴族は斬り立てられていく。ついに追い詰められ、剣で串刺しになって斃死した。
 この世界では、訪問客=人間はすべて死に絶えた。
 そして、やがてほとんどのロボットが停止した。
 デロスのアリーナはいずこも「死体」だらけになった。
 同じような事態は「ローマの世界」でも起きていた。

逃げ回るピーター

さて「西部の世界」では、ピーターが黒いガンマンから逃げ回っていた。ガンマンの尾行をまいて隠れても、あきらめずにガンマンは追いかけてくる。  不意打ちを狙って身を潜めたピーターは、はずみで銃を取り落として失ってしまた。そうなれば、ただただ逃げ回るしかない。   アンドロイド(人型ロボット)が、逃げても逃げても人を追いかけくる、この追い詰められる切迫感は、「ターミネイター」でも描かれている。が、その原型は、少なくとも「ウェストワールド」に起源があるといえる。  ピーターは、ウェストワールドを抜け出て、中世の世界のアリーナ(王宮)に出た。そこでは、人間もロボットもすべて「死に絶えて」いた。ところが、ガンマンはひたひたと追いかけてくる。  次にピーターは、ローマの世界に逃げ込んだ。そこにも、動かなくなった、数多くの人間とロボットが横たわっていた。ピーターの行く手には、どこでも「死体」だらけだった。  動いているのは、ピーターと黒ずくめのガンマンだけだった。  ピーターは泉水の近くのマンホールから、地下に降りて、ついにコントロールセンターに逃げ込んだ。  センターの各室では、係員や管理要員がやはり全員が死に絶えていた。  だが、ガンマンの足音が近づいてくる。ガンマンは、人の足跡を識別追跡する視覚センサーを備えているので、ピーターの行く先を正確に突き止めることができるようだ。  しかし、視覚そのものは、人間に比べて格段に解像度が劣るようだ。ロボットは、蛇のように、人間や生物の輻射する熱、つまり赤外線や遠赤外線を感知して、その居場所を特定するようにできているらしい。  次にピーターが逃げ込んだのは、修復検査室だった。いくつもの壊れたロボットが、作業台の上に横たえられていた。  その向こうの作業机の上に劇薬の瓶が並んでいた。ピーターは、そのなかから塩酸の瓶を手に取った。そして、壊れたロボットを装って、1つの作業台の上に横たわって、ガンマンを待ち伏せた。  追いかけてきたガンマンは、ピーターが横たわっている作業台を行き過ぎようとして、輻射熱を感知して、振り向いた。その瞬間を狙って、ピーターは塩酸をガンマンの顔に浴びせかけた。塩酸の激しい作用でガンマンの顔は焼けただれた。そして、方向を失ってさ迷うことになった。  その隙にピーターはコントロールセンターから逃げ去った。ふたたび中世の世界の王宮に逃げ込んだ。薄暗い玉座の間に入っていった。そこには、あの初老の男が扮した、冒険家の貴族の骸があった。彼を串刺しにした黒騎士は、玉座に倒れこんで機能停止していた。その隣の、女王の座には、初老の男の妻が、やはり死んでいた。  ピーターは、玉座の後ろに回った。そこにガンマンが現れた。彼は、生体の熱輻射を感知して、即座にピーターの居場所を突き止めた。だが、ピーターが、壁や柱の松明に近づくと、その熱輻射の赤外線の干渉を受けて、人間の身体から発する熱は、ロボットのセンサーからは感知できなくなってしまう。  ガンマンは、ピーターの居場所を「見失った」。  ガンマンの戸惑った動作から、ピーターは、炎のそばにいれば、ガンマンの追跡から逃れられそうだと察した。そこで松明の柄を抜き取って、やみくもに近づいてきたガンマンの帽子や服、身体に火をつけた。ガンマンの全身は、またたくまに激しい炎に包まれた。そして、逃げ惑い倒れこんだ。  その間にピーターは、王宮のさらに奥に進んだ。そこには牢獄があった。若い娘が両腕を縛られて牢の格子にくくりつけられていた。彼女はまだ生きていて、助けを求めていた。  ピーターは娘を助け出し、抱き抱えて、牢の外に出した。ところが、彼女に水を与えたところ、頭部から火花を出して停止してしまった。電子回路がショートしたのだ。彼女はロボットだった。  驚いたピーターは、近くの階段を登り、「死に絶えた」女性型ロボットを見つめた。  と、そこに黒焦げになったガンマンが現れ、もがきながら倒れ込んだ。その顔はすっかり焼け落ちてしまって、黒い空洞になっていた。倒れたガンマンは、「痙攣」を起こしてついに「死滅」した。  階段に腰を落として、呆然とするピーター。驚愕と安堵からか、焦点を失ったピーターの顔。その顔を映すシーンで、この作品は終わる。

動揺する制御本部

このウェストワールドの砂漠地帯でのできごとをモニターで監視していた係員たちは驚いた。あのガラガラヘビは、まるで人間を攻撃する自立的な意思(本能)をもっているかのように行動した。だが、コントロールセンターの運営管理規則では、ロボット動物には、そうした動きをしないような制御システムがはたらいているはずだ。
 センターの所長や係員たちは、あのガラガラヘビのロボットそれ自体にトラブル(制御機能の障害やプログラムエラー)があると見た。そこで、管理要員たちに、あの砂漠に出向いて、ガラガラヘビの「死骸」を回収し、検査に回すように指示した。

 それにしても、最近、訪問客を楽しませるという役割から自立して、あたかも自分の意思を持つかのような行動を取るロボットが少しずつ増えている。これは、ここのロボットの仕組みやプログラムの問題というよりも、むしろそれらを管理するスーパーコンピューターが「病気」にかかり、本来の設計目的とは異なる動きをするようになってきたことと関係があるらしい。
 あるいは、人間に反抗するマクロ・プログラムをコンピュータ自らつくり出し、それを制御体系のなかに組み込み、増殖させているのか。
 いずれにしろ、最初に人間の欲望に完全に従属するようにシステム設計した人間=企業から見れば、それは、「コンピュータの病気」ということになる。
 今から30年以上前、この映画の制作時には、まだ世間一般化していなかった「コンピュータ・ヴァイラス(ウィルス)」。それが物語には登場している。その意味では先端的な知識を駆使した演出だ。アメリカは恐ろしい。

 異変は、「中世の世界」でも起きていた。
 あの、初老の夫婦の夫は、この世界で冒険家の貴族=騎士に扮し、王女に扮していた妻と恋に陥り密会するというロールプレイングを楽しんでいた。ところが、この貴族を付け狙う敵役がいた。「黒騎士」だ。
 さて、密会を終えた初老の貴族は宮殿を出て、街中で美しい若い娘(ロボット)に出会う。彼はその娘に恋慕して迫るが、撥ね付けられた。
 この世界のロボットも、訪問客=人間の欲望や要望に従順に従うように設計・コントロールされているはずだった。ところが、この娘ロボットは、自分の意思を持つかのように拒否した。

 やはり、このシーンも、コントロールセンターのモニターで監視されていた。係員たちは、ここでもロボットの「逸脱行動」が発生したと問題視し、営業時間終了後、あのロボットを回収・点検することにした。
 いくつかのトラブルを抱えながら、デロスのその日の営業時間は終わった。コントロールセンターでは、翌日から段階的にロボットの制御システム全体を見直すことにした。

 その前の日の夜、ピーターとジョンは、西部の荒くれ酒場で大乱闘を経験した。
 昔の西部劇映画とテレヴィドラマでは、サルーンで酔っ払った荒くれカウボウイたちの大げさな喧嘩が、いわば定番のように繰り返されたものだ。
 ピーターとジョンが入った酒場でも、どうでもいいような小さな揉め事から乱闘が始まった。殴り合い、酒瓶を投げ合ったり、酒瓶で誰かの頭をぶん殴ったり、テイブルや椅子を叩き付け合う。バーのカウンターを飛び越えてぶつかり合ったり、壁を突き破ったり。テイブルは割れ、椅子はバラバラになる。おなじみのシーンだ。
 ピーターとジョンは、強い酒が回り、そのうえ乱闘に疲れ果てて、倒れたまま気を失うように眠り込んでしまった。
 翌朝、ひどい頭痛を抱えたまま2人は、目を覚まし、起き上がった。かなりの二日酔い状態だ。

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