さて、無事脱獄したマイコ―を娘が訪ねてきた。テスという名の、長身で賢そうな眼をした美女だった。2人は抱き合って再会を喜んだ。そして、昔の腹に埋めた宝石を入れた箱を掘り出そうということになった。
フィンチは、マイコ―に娘がいることを知らなかった。フィンチとしては、まあ、それはマイコ―の個人的な事情だから、自分には関係ないと割り切った。
それで、野原を掘り返すためか、3人はガーデニング専門店にこっそり侵入して、道具をそろえることにした。当面金がないから、必要なものは盗むしかないというわけだ。
ところが、フィンチたちが忍び込んだ店を突き止めたあの2人のゴリラは、誰がいるかも確かめずにマシンガンを店のなかにぶっ放した。約500発以上の銃弾が、店の壁や窓を突き破って、3人に降り注いだ。フィンチはとっさにテスをかばって床に伏せさせたが、マイコ―は殺されてしまった。
ところで、あの2人組は、またもや標的の生死を確認しないで、その場から逃げ去った。というのも、派手な銃撃でただちに警察が出動してきたからだ。
マイコーはフィンチに「娘の面倒を見てくれ」と言い残した。
射殺されたマイコーの遺体は駆け付けた警官隊によって、犯罪の証拠なので警察に送られ検視の被検体となった。形ばかりの葬儀ののち、フィンチとテスは今後のことを話し合った。マイコー父娘が以前野原に埋めたダイア入りの箱をどうやって探すか、2人それぞれの分け前をどうするかを。
もちろん、双方の取り分は折半ということになった。
だが、テスはフィンチに攻撃を仕かけた。
「あなたがドジを踏むたびに、私の取り分を1割ずつ上げていくことにするわ」
というのも、テスはお人好しのフィンチを手玉に取ろうともくろんだからのようだ。
けちな偽造屋だが知能犯のフィンチはたしかに頭が回転は速い。だが、人が良すぎて空回りし、小さなドジを踏みがちだ。おっちょこちょいなのだ。テスは、それを種にからかおうというのだ。
テスは画家をしていて、古い倉庫の2階をアトリエ兼住居としている。そこには、二十数年前に父から受け継いだ品々――今では遺品――が残っている。なかでも、奇術に使う鳩数羽と鳥かご――巧妙な仕掛けが施されている――を大切にしている。鳩は訓練された伝書鳩らしい。
テスはその鳩をフィンチとの連絡に使うことにした。今はやりの携帯電話を使わない。このアナログの連絡方法は、デジタル通信機器のトレーサビリティを避けることができる。いかにも古典映画のファン向けの設定、行動スタイルではないか。
フィンチの小さなドジをあげつらってダイアの取り分を取り上げ、自分の分け前を増やそうとするテスを、フィンチは「強欲」と非難しした。だが、テスは反論する。
「本当に私がダイアをほしがっていると思う?」と問い返し、箱のなかに入れた古い写真が自分の宝物なのだと言った。その宝を掘り出そうとしているのだと言い張った。
さて、2人は、ダイアを入れた箱が埋められている野原に行って掘り出すことにした。
ところが、自転車に乗ってその場所に行ってみると、何とその野原は刑務所になっていた。厳重な刑務所のフェンスが野原を囲い込んでいた。