「1時間経過しても駅に現われなかったら、ヤードのアネット刑事にラップトップを渡してくれ」
という約束にしたがって、エミリーはドーヴァートンネル入口駅で待っていた。だが、1時間たっても、まだジェイムズは来なかった。彼女はジェイムズが心配でならなかったが、待つのをやめて家に帰るために別のラットフォームに移ろうとした。足取りが重かった。
そこに、顔を顰めたジェイムズが現れた。肩にひどい銃創を負っていた。それでも、エミリーは嬉しくてならなかった。目が潤んだ。でも、皮肉をこめて歓迎した。
「あなたという人は、このあいだ、あんなに酷い怪我をしたのに、またこんな傷を負って…」
「大丈夫だ。ありがとう」ジェイムズはエミリーの肩を抱いた。
すると、エミリーの口から決心の言葉が迸り出た。
「わたしも、あなたといっしょに行く」
エミリーは、旅行の支度をしてきていた。
「だめだ。君はここで生き抜くんだ。
でも、約束しよう。必ず再会できるようにすると」
そこに急行列車がやって来た。ドアに向かうジェイムズ。
そのとき、プラットフォームへの階段を昇りながらアネット警部が昇ってきた。
ジェイムズはゆっくり振り向いた。アネットは頷いた。ジェイムズは列車に乗り込んだ。列車はドーヴァートンネルに向かって走り出した。
エミリーは去っていく列車を見送った。そして、心を決めたように振り向いて歩き始めた。そのとき、アネットがエミリーに声をかけた。
「彼はあなたの知り合いなの?」
「ええ、親しい友だちなの」
「そうなの」と言って、アネットはエミリーのバッグを手にとって、いっしょに駅の出口に向かった。
その後、エミリーは学校に戻った。親しい友だちもできた。
数か月後、仕事から帰宅した祖母が階下の郵便受に入っていたアメリカからの国際郵便(封書)を持って、部屋に上がってきた。
「エミリー、アメリカからの手紙だわ」
エミリーは、スクールメイトと電話していた。出かける約束をしたらしい。でも、アメリカからの手紙と聞いて、急ぎ足で手紙が置かれたテイブルまでやって来た。そして、封を開いた。
「ジェイムズからだわ。なになに…。まあ、ビューティーを野に放すから、おばあちゃんといっしょにモンタナの牧場に来てくれ、ですって!」
封筒のなかには、ペアの航空券が入れられていた。
数日後、エミリーはモンタナの牧場にいた。
ジェイムズは、飼い馬を入れてある囲いの入口を開けた。
囲いのなかでは、エミリーがビューティーの轡を外していた。そして、やさしく首筋を叩いた。広大な草原に走り出るように、と。賢いビューティは、エミリーの呼びかけを理解したようだ。
力強く走り出した。牧場のなかを助走すると、草原の彼方に向けて疾駆していった。野生に帰るために。
映像物語は、ここで終わる。