コントラクター 目次
暗殺者の孤独
原題について
見どころ
あらすじ
暗殺――最後の任務
狂った手順
孤独な少女エミリー
コリンズの策謀
空港での対決
冤  罪
ふたたび間一髪
モールでの戦い
別れと再会
背景にある問題について
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

■■背景にある問題について■■

  さて、物語のなかで、CIA――かつてコリンズが指揮していた部門――が中東でテロリストのジャハールを支援・育成したことが、アメリカ議会の軍事委員会で取り上げられ、コリンズが召喚・査問を受けることになったという事情が描かれている。
  いまやCIAの幹部になったコリンズは、このスキャンダルの証人・証拠を隠滅するために、ジェイムズにジャハール暗殺を命じたのだ。
  この物語では、反ソ連勢力としてテロリストを育成する策略とか資金支援などは、いわばコリンズ一人がかかわった逸脱事件として描かれている。しかし、作戦部門の長が指揮した動きなのだから「個人の独走」ではなかったはずだ。
  この経緯は、物語の状況設定に深くかかわる問題だが、背景にそっと押しこまれたまま過ぎてしまう。
  だが、私はそこにこだわりたい。

  テロリストの1人を殺すだけで、核心的な証拠や証人がもみ消されるほどの、小さな事件なんだろうか。資金の提供ルートやら、育成組織との関係やらに関する証拠はどうするのだろう。
  そして、作戦の指揮官はジェレミー・コリンズだが、彼にそれを指示命令した政府高官――国務省やホワイトハウスの高官が絡んでいるはず――がいたはずだが、そっちの問題はどうするのか。

  物語では、その辺に関しては説明する描き方をしていない。なぜか?
  理由は、この映画が制作された当時、CIAのテロリスト育成の直接的な証拠さえ消せば、あとは何とかなるという政治状況だったからだろう。つまり、ネオコンがホワイトハウスを強引に牛耳っていたブッシュ政権の1期目のことだろう。
  というのは、次のような事情があるからだ。


  1980年代にアメリカ政府と軍部――作戦を統合するのはCIAだろう――は、アフガンに侵略したソ連軍に対抗するためアルカイーダを強力に支援したことがある。
  オサマ・ビン・ラディンがテロリストとして頭角を現していくのも、アメリカの援助が背景にあった。援助資金の送金ルートの1つとしてはサウディアラビアの王族や豪族の人脈があった。その人脈が財閥としてのブッシュ一家と結びついていたことは、海外メディアが報道している。

  このことは、2001年9月11日の事件のあとでも、アメリカでは大きな問題にならなかった。ブッシュ政権が政府諸機関やメディアに圧力をかけて情報の隠蔽・封じ込めることができたからだ。
  で、この作品の物語は、このあたりの事情をもとにして状況設定を組み立てたに違いない。

  そこで、この物語の背景文脈に話を戻すと、当時はイスラム過激派テロリスト育成の作戦が、CIA首脳や国務省=ホワイトハウスから(暗黙のうちに)それなりに高く評価されたから、コリンズはその後、順調すぎるほどの出世(プロモウション)を達成したのだ。
  だが、あまりに露骨な作戦だったので、またジャハールがおこなったテロの結果が深刻だったために、後になって、作戦の正当性が疑われ批判されるようになったのだろう。2008年ごろから、ブッシュの戦争政策に対する批判が試みられ、大統領府によるメディアや政府諸機関への圧力が政治スキャンダルとして暴かれ始める。

  という意味では、この物語は、アメリカ政府内部の深刻な亀裂を描いているともいえる。だが、そっちの方面のスキャンダルや紛糾を描いたのでは、月並みな作品になってしまう。あるいは、あまりに生臭くて手がつけられないのかも。
  そこで、ブリテンを舞台に、窮地に陥った暗殺者が知略を駆使して脱出する物語に仕立て上げたのだろう。というのは、私の勝手な思い込みかもしれないが。

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