ガタカ 目次
人生は遺伝子では決まらない
原題と原作について
見どころ
あらすじ
適正者と非適正者
共同主観としての「優劣序列」
優劣の逆転
社会の階級構造と抜け道
ユージーン・モーロウ
虚偽のパースナリティ
殺人事件
…ヴィンセント包囲網
美女の接近
適正者と非適正者
遺伝形質の意味
アントニオの捜査指揮
2人のジェローム
兄弟対決
宇宙への旅立ち
科学技術と価値観の人類史
おススメのサイト
異端の挑戦
炎のランナー
医療サスペンス
コーマ
評  決

ユージーン・モーロウ

  ヴィンセントはヴァリッドの身分人格を買い取る決断をして、譲渡契約を申し込んだ。彼の申し入れに応じた人物は、ジェローム・ユージーン・モーロウという若者だった。
  かつてはヴァリッドのなかでもエリート中のエリート(となるはずの才能・資質を持つ)だった。
  知能指数は高すぎて測定不可能。運動に関しては馬並みの心臓・心肺能力、強くて俊敏な筋力。なかでも、水泳での成績は抜群だった。そして、水泳界でのトップエリートをまずめざした――ワールドカップとかオリンピック競技のようなものをめざしたか。
  ところが、満を持して臨んだ競技大会では、優勝を逃し、銀メダルだった。

  ユージーンは、その大会1回だけで挫折してしまった。トップエリートたちの競技では、その日の体調とか気分などが(競争相手と比べて)下降しているときもあるから、勝敗は運やタイミングに左右されることもある。生化学や遺伝子工学でも、そこまでは面倒見切れない。
  だが、他人に敗れたことがなかったユージーンは、この挫折で生きる目的を失ってしまったらしい。自殺を試みた。走る自動車の前に飛び込んだという。
  奇跡的に命は取りとめたが、下半身不随になってしまった。


  この事故・事件は、金の力で世間から隠され、ごくごく内輪の示談処理で解決された。そのために、事故そのものの発生も、その当事者の名前も公式の記録に残らなかった。そのために、ユージーンの身分=パースナリティは闇取引で売り買いすることができるわけだ。
  ところで、この若者の名前はじつにふるっている。フィクション物語では、登場人物の名前には、作者や制作者の思いや暗示・隠喩が込められている場合が多い。

  ユージーン・モーロウ( Eugene Morrow )。
  いまの世の中でも、ヴァリッドに当たる遺伝的な優性形質の優位を信じ主張する立場を「優生学的エリート主義」( eugenics / eugenicist )という。ユージーンというパースナルネイムは、この優生主義に引っかけられ、たやすく連想させるものだ。そして、ファミリーネイムのモーロウは「暮れて翌朝、翌日、夜明け」という意味だ。この語の頭に「今の」「今から見て」「今回の」という意味のゲルマン語系の「接頭辞: to 」をつけると、 tomorow になる。ほかにも本日という意味の today がある。
  とすると、ユージーン・モーロウという名前は、「優生主義がたそがれて後の翌朝」という意味を暗示する。あるいは、「優生主義の夜明け」と、まったく逆の意味「優生主義の没落」を含意することになる――きわめて逆説的な皮肉を込めた意味。

  遺伝形質で人間の優劣を決める思想の限界や一面性、その胡散臭さを表すネイミングである。
  これに対してヴィンセントのファミリーネイムは「フリーマン(自由人)」だ――もっとも、彼以外の家族は皆、既成の価値観に束縛されているのだが。ヴィンセントには「勝者」の意味があるから、「自由人が勝つ」という「もじり」かもしれない。

次のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界