暗殺をめぐるジャッカルと捜査当局の攻防は、短いシークェンスのカットバックで描かれます。大統領暗殺の日が迫ってくる緊迫感がみごとに表現されています。
ジャッカルは、狙撃のチャンスはドゴール自身がつくりだすと確信していました。
というのは、ドゴールはフランス国家の威信と栄光は自分が体現していると自負していたたからです。彼の性格や行動スタイルは、いつもそれで一貫していました。変えるつもりもないことも自明でした。
ゆえに、狙撃を恐れて公式行事への参加を見合わせたり、予定を変更するのは、大統領イコール国家の弱さを表すことにほかならない、として拒否し続けることも。
意地でも事前の予定どおり公衆の前に堂々と姿を示す必要がある、と考えて行動することは間違いないからです。
OASのロダンは、副官の失踪は当局による逮捕に違いないと懸念します。おりしも、くだんの美女からの通報で、当局の捜査の進展を知りました。
ジャッカルという暗号名のプロの狙撃者がOASと契約してドゴール暗殺を企図していると突き止めたことを。
ジャッカルはOASの秘密の連絡先に電話して、そのことを知ります。
狙撃の実行日まであと11日。
ちょうどジャッカルが、サヴォイ経由でミラノに引き返す道とフランスのニース方面に向かう道との分岐点にさしかかるところでした。
道の分岐点は思案の分岐点でした。
彼我の状況を引き比べて、この仕事をただちに中止すべきか、続けるべきか。
思案の結果、ジャッカルは腹をくくった顔をして国境への道を走り出します。彼には十分な勝算があったのです。
思案の分かれ目を道路の分岐点で示す、このへんの描き方がうまいですね。
ジャッカルは国境の検閲をくぐりぬけて、カンヌ郊外のホテルに到着しました。
そして、夫の浮気外泊続きで孤閨(独り寝)を嘆くモンペリエ男爵夫人を誘惑して、彼女を男の魅力の虜にしていました。
翌朝早く、夫人が住居の館に向けてホテルを発つと、ジャッカルも予定を早めに切り上げて出発します。
彼は、OASの秘密連絡員に電話して、当局の動きをつかんだものと見られます。
その少し前、対策会議にDSTから、ダガン名義のパスポートで30代前半の金髪の男性がフランスに入国したという情報がもたらされます。
続いて、その前日にカンヌ郊外のホテルから届けけられた、ジャッカルと思しき人物が宿泊したという記録が1日遅れで到達します。
というのも、当局の活動はあくまで秘密捜査ですから、ことの緊急性、重大性を知る由もない一般の官憲は、通常と同じテンポで外国人情報・治安情報を上級機関に報告しているからです。
とにかく、ルベルは緊急に地元の官憲に連絡して、総力をあげてそのホテルを包囲するよう指示します。しかし、当局がホテルに踏み込むと、ジャッカルはすでに消えていました。