殿、利息でござる! 目次
「無私の日本人」・・・
原作について
見どころ
あらすじ
奥州街道吉岡宿の悲惨
穀田屋と菅原屋
菅原屋、利息の重みに嘆く
殿様に金を貸して利息を…
物語は転がり始める
肝煎と大肝煎
全財産を質入れ
煮売り屋は情報の交差点
煮売り屋は情報の発信地
馬方、旦那衆を説く
穀田屋十三郎のコンプレックス
遠藤寿内の復帰
慎ましさを求める
藩への嘆願
門前払い
大肝煎の動揺
浅野屋甚内の覚悟と努力
親子、兄弟の絆
嘆願は認められたが…
浅野屋の悲願
「冥加訓」の教え
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大肝煎の動揺

  代官に嘆願書を提出してから2か月近くたった。だが、穀田屋はじめ吉岡宿の商人たちには藩からの返答は届いていなかった。彼らは返答が遅いことを心配していた。
  ところが、じつは先頃、大肝煎の千坂仲内は八島代官から嘆願が却下されたことを知らされ、返答書を受け取っていた。だが、藩からの返答を吉岡宿の人びとにどう伝えたらいいか悩んでいて、知らせなかったのだ。
  とはいうものの、きわめて不本意な結果にどう対処したらいいか悩み、町一番の知恵者、菅原屋篤平治を屋敷に呼んで藩からの返答書を見せた。菅原屋が嘆願書に貼付された返答――出入司の萱場杢が記した紙片――を読むと「吟味しにくい」という理由になっていた。
  つまり、嘆願内容のの当否について判断を避けていて、ただ単に吟味しにくいという理由でにべもなく却下されたというわけだ。門前払いだ。

  千坂仲内は「あれほど辛苦して書いた嘆願が検討されることもなく突き返されたことは残念だ。が、このような大願は一度や二度申し上げたくらいでは通らないのだろう。やがて機会を見て再度試みよう」と宥めた。
  そして「やはりお上に無理を願ったかの」と腰を退き始めるような言葉を漏らした。
  さらに「殿様のご苦労にならぬよう、われらでこの金を回して利息を待ちに回してどうか」と言い出した。
  千坂仲内は大肝煎として特権を認められ名字帯刀を許されているの。で、百姓と武士(藩政)との中間に立っていても、武士に近い立場にあるので、これ以上藩側と交渉して対立したくないという気分が見え見えだった。
  それを見て菅原屋は「われらだけで資金を回して利息を取れるくらいなら、そもそもこんな嘆願を出そうとしませんよ!」と強く訴えた。当時、現在のように公開された投資市場があるわけでもなく、投資に参加できる大きな都市の特権的な商人でさえ、地方ごと、団体(株仲間やセクター)ごとに厳しい制限を課されていたのだ。
  吉岡宿の商人たちが投資できるとすれば郡内だけで、そこには資金を回して利息を得られるような市場はなかった。


  「しかし、私にも立場というものがある。再度願い出るにしても、もっと時をおかねばならぬ」と千坂は後ろ向きの姿勢を変えなかった。そのため、嘆願が却下されたことはしばらく町民たちには知らせないことになった。

■九兵衛の帰郷■
  さて、資金集めをした穀田屋や肝煎たちは、2か月経過しても嘆願への返答がないことを心配していた。菅原屋は却下された事実をしていたが、大肝煎との約束でほかの同志に話すことはできずにいた。
  そんなおりの夜半のことだった。
  穀田屋十兵衛が通りを歩いていると、浅野屋の軒下に佇む不審な人影を見つけた。その人物は雨戸の隙間を探っているようにも見えた。そこで十兵衛が声をかけると、その人影は一目散に逃げ出した。
  怪しさたっぷりの行動から十兵衛は泥棒だと思って、大声で「泥棒!」と叫んだ。薄壁の町屋が並ぶ宿場町のこととて、叫びを聞きつけて何人もが通りに飛び出してきた。肝煎もそんな一人だった。だが、怪しい人物は、肝煎の手をすり抜けて逃げ回った。
  大騒ぎに伝馬人足たちも駆けつけて、逃げ回る人物を追い回し、ついに煮売り屋「しま屋」に小口に追い込み捕まえた。そのさい、「しま屋」の引き戸は倒れて外れてしまった。

  肝煎をはじめ住民たちは、煮売り屋に捕らえた男を連れ込んで人相を改め、問いただし始めた。すると、15年前、この宿場町から夜逃げした大工の九兵衛だった。

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