殿、利息でござる! 目次
「無私の日本人」・・・
原作について
見どころ
あらすじ
奥州街道吉岡宿の悲惨
穀田屋と菅原屋
菅原屋、利息の重みに嘆く
殿様に金を貸して利息を…
物語は転がり始める
肝煎と大肝煎
全財産を質入れ
煮売り屋は情報の交差点
煮売り屋は情報の発信地
馬方、旦那衆を説く
穀田屋十三郎のコンプレックス
遠藤寿内の復帰
慎ましさを求める
藩への嘆願
門前払い
大肝煎の動揺
浅野屋甚内の覚悟と努力
親子、兄弟の絆
嘆願は認められたが…
浅野屋の悲願
「冥加訓」の教え
おススメのサイト
映画 異端の挑戦
炎のランナー
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき
ブ ロ グ
知のさまよいびと
信州の旅と街あるき

「冥加訓」の教え

  萱場杢は大肝煎と吉岡宿の商人たちの努力と藩財政への貢献を賞するために、彼ら全員を城の二の丸御殿に呼びつけた。大肝煎を筆頭に肝煎や穀田屋、菅原屋など8人が御殿の中庭に正座してかしこまっていた。
  その中庭に向かう萱場杢。彼は曲がりくねる回廊を歩くとき、斜めに近道することなく必ずその中心を歩く。だから四角四面に直角に曲がる。この人物の性格描写をこの歩き方で表現しているのだ。機械のように論理的に施行を進め、外れることがないということか。
  萱場杢は彼ら全員、一人当たり2両2分の褒賞金を沙汰すことにし、なかでも浅野屋甚内には特段に労を大として3両3分を下げ渡すことにした。
  そして、資金集め企図に参画した仲間たちの顔をひとりひとり眺めていった。名を呼びかしこまっている者たちに顔を上げさせた。ところが、そこに浅野屋甚内がいない。最大の功労者の不在を知った杢は、不参の理由を問いただした。

  「目が悪い」という理由を答える者がいたが、杢は反論した。
  「目が悪いことは聞いておったゆえ、馬と駕籠を遣わしたはずじゃ。橋本代官によれば、宿内を出歩いているそうではないか。いかがいたしたのだ」
  誰もが平伏して答えられないでいると、十三郎が「父が読み聞かせてくれた『冥加訓』の教えによるものかと存じます」と言い出した。杢はその内容を聞き出そうとする。馬鹿正直な十三郎が畏怖しながらも、言い淀みながら答えた。
  「万物に霊長たる人は、牛馬の背に乗って牛馬を苦しめることなかれという教えがあって……」
  「では、駕籠はどうして使わないのか」という問いには、「まして人が同じ人の方や背を苦しめることは論外にして……」
  杢はさらに詰問する。
  「何と、駕籠に乗るのは人倫にもとると申すのか。では聞くが、この藩でもっともよく雅語を利用する者が誰か(つまり伊達公)は知っておろうな」

  菅原屋は冷や汗をかいていた。十三郎がそんな答え方をすると、この藩の最大の特権者である藩侯を貶めるという理由で打ち首になってしまうのではないか、と。
  しかし、論理を突き詰めるのが好きな萱場杢は学究肌で、『冥加訓』が展開している論理の展開を知りたかっただけのようだ。死を覚悟した十三郎の怖れとは別に、杢は『冥加訓』の論理の展開それ自体に納得したようだった。その論理の内容が不埒だとか悪いという価値判断はしなかったようだ。
  「よい。では」と言って場を後に去ってしまった。
  はいつくばっていた商人たちは胸をなでおろした溜息をついた。

  そのあと街に帰った穀田屋や菅原屋たちは、褒賞金を全員が受け取らずに浅野屋甚内に渡すことにした。だが、甚内は彼らがどう言っても頑として金の受け取りを拒んだ。十三郎はみんなに向かって言った。
  「ほら、やはり私が言ったとおりになったでしょう」…全員苦笑い。
  座が和んで和気あいあいとしているところに、突然、高価な衣装を着た貴公子が現れた。側役2人だけを引き連れてきた若殿、伊達重村だ。
  全員が驚き畏怖している前で、伊達侯は半紙に墨で文字をしたためた。その文字とは、「霜夜」「寒月」「春風」だった。殿さまと側近たちはそれぞれ半紙を掲げた。そして重村が言い放った。
  「これらをその方らの酒の銘とせよ。
  それから浅野屋、店を潰すことは相ならん。わかったな。藩主のために店が潰れたとあっては、聞こえが悪い」と言い置いて去っていった。「余は馬も駕籠も使わん。城まで歩いていくぞ!」と側役を急き立てながら。

  その後、吉岡宿は毎年、藩からの利息を受け取り分配して伝馬役の負担が大幅に軽減されたため、明治維新まで住民世帯が減ることなく存続したという。ただし一度、藩が勝手に利息不払いをしたことがあったが、吉岡宿は再度運動して嘆願して、利払いを続けさせたらしい。

前のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界