ウォーキング with モンスターズ 目次
恐竜よりも古い動物たち
見どころ
古生代カンブリア紀
身体の形状と構造
シルル紀
内陸河川への進出
デヴォン紀
石 炭 紀
ペルム紀
①ペルム紀初期
プレデターの産卵・孵化
②ペルム紀晩期
砂漠での生存競争
古生代の終焉
ペルム紀から中生代三畳紀へ
恐竜類の時代へ
「大量絶滅」の古生物学
大量絶滅の痕跡の年代記
大量絶滅の主要な原因

地質年代図を見る

石炭紀( Carboniferous )

  3億年前の北アメリカ、カンザス。
  この時代の大陸は、それほど巨大ではなく、周囲を海洋に囲まれて、ほどほどに降水による水の循環が展開していた。そののいたるところに植物が多様化しながら進出した。植物の王者はシダ類の巨木で、樹高は40mから100mに達した。海洋のうち遠浅の部分も多く、藻類が繁栄した。

  光合成をする植物の飛躍的な繁栄は、大気中の酸素の濃度を著しく高めていった。3億年前には、大気中の酸素濃度は、現在の3倍、30~40%に達した。そして、果てしなく広がる森林の植物の光合成に伴う蒸散によって、大気中に放出される大量の水分は、急激な雲の発生によって大気の循環=対流を加速した。
  森林の上空では、絶えずどこかで雷雲が発生していた。雷雲の内部と周囲では、水や大気の粒子の激しい運動=摩擦によって帯電状態が生じ、頻繁に雷閃が飛び交った。
  高濃度の酸素に満ちた地表に落雷すると、地上の物体は衝撃と高熱によるエネルギーを与えられて、爆発的に燃焼し酸素と化合した。こうして、地表は危険な火薬庫のようになってしまった。

  高濃度の酸素を含む大気は、地上に進出していた節足動物や昆虫類を巨大化させた。気門呼吸によるエネルギー代謝・物質代謝の効率を著しく高めたからだ。小さなエネルギーでより大量の細胞や組織(外骨格や筋肉、内臓器官など)の成長や維持を可能にしたからだ。つまり、大きな身体の保持を可能にしたわけだ。
  巨大なトンボの形をした昆虫、メガネウラ( meganeura :翼に張りめぐらされた「巨大な神経支脈」「翅脈」という意味)が、大気=大空の支配者となった。両翼端間の長さは、70~100㎝以上になった。
  ただし、これだけ大きいと、身体組織の熱を抑制するため、あまり長い時間にわたって強く羽ばたき続けることはできなかったと思われる。普段は滑空(グライディング)で、捕食のときや危険回避のときに激しく羽ばたいたようだ。現在の猛禽類を想起すればよい。
  メガネウラの群れが湖沼の上空を低空飛行すると、水中から巨大な両生類が飛び上ってきて捕らえようとする。体長が2~3mにもなるプロテロギュヌス( proterogyunus :「原始的なオタマジャクシないしイモリ」という意味)だ。内陸の水辺で最強のプレデターである。

  というわけで、このあたりの水辺はきわめて危険だ。

  だが、そこにやってきた節足動物がいる。アルトゥロプレウラ( arthropleura )だ。体長は、この作品の映像では、3m以上ありそうだ。高濃度の酸素が、節足動物の巨大化を可能にしたからだ。
  この節足動物の姿は、ムカデの横幅を広げて平べったくして、200倍から300倍くらいに巨大化した形状だ。ヤスデやダンゴムシの遠い祖先だという。
  アルトゥロプレウラとは、「連結した多数の肋」という意味だ。この場合の「肋」とは、身体の軸線に対して左右直角に伸びた(身体の外側を覆う)鎧のような装甲ということだ。横幅70㎝で奥行き20㎝くらいの弓なりの甲冑(背側が硬く、腹側は柔らかい)を何十個も隙間なくつなげた形から、つけられた名称だ。
  アルトゥロとは、「隙間なくぴったり連結した状態」という意味。
  食物を摂取する口蓋や顎の化石は未発見だという。だから、食性は不明だ。この映像プログラムでは、植物食のおとなしい虫だという。そいつが1頭、森のなかから水辺にやってきた。

  当然のことながら、貪欲なプロテロギュヌスが捕まえて餌にしようとして近づいてきた。普段はヴェジタリアンの温和な動物だが、アルトゥロプレウラは襲いかかろうとする敵=捕食者に対しては、防御戦を挑む。
  その背側の装甲は頑丈で、大型両生類の歯では食い破ることはできそうもない。しかし、執拗に手を出してくる。そこで、アルトゥロプレウラは、敵を威嚇するために身体の前方を上方に持ち上げて伸び上がった。巨体を立ち上げてみせて、敵を怯ませようとした。
  しかし、威嚇は効果なく。両生類は襲いかかってきた。そして、巨大ヤスデを投げ飛ばしてしまった。アルトゥロプレウラは、槍のように尖った岸辺の朽木の残骸(数十㎝の円錐状)に背中から落下して、串刺しになってしまった。背中から腹まで貫かれて、内臓と体液が流れ出た。プロテロギュヌスは、衰弱した巨大ヤスデの柔らかな腹側を食いちぎって、飲み込み始めた。

  物語では、もう1組の動物が激しい生存闘争を展開する。
  一方は、両生類から進化した最初期の爬虫類、ペトゥロラコサウルス( petrolacosaurus :「岩石に閉じ込められたトカゲ」という意味か?)で、俊敏だが体長は30~40㎝ほど。他方は、体長30㎝ほどのクモ、メソテラエ( mesothelae :「身体の中ほどにある紡錘突起」という意味、胴体の中央付近に糸を紡ぎ出す突起があるクモということか)。

  ところが、この場面は、現代の古生物学の知見からすると、ありえなかった架空の闘争シーンだという。
  1つめの理由は、ペトロラコサウルスは、最初期のトカゲだが、まだ両生類から爬虫類への進化の途上=過渡段階にあり、映像が示すほどに活発で俊敏な動きができたかは不明だから、ということだ。
  2つめの理由は、メソテラエは、最古代のクモではなく(遠い縁戚ではあるが)、巨大なサソリ(内陸湿地ないし浅い水辺近くの陸に生息する)だったらしいから、だという。この番組が制作されたころまでに発見・研究されていた化石は、この動物の全身ではなく、頭部から胸部にかけての部分だった。その部分だけで、姿を再現すると、この映像で描かれたクモの形になるらしい。ところが、その後、50㎝近くになる大きなサソリの仲間だと判明したのだ。

前のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済