さて、地質時代は三畳紀に移った。
ディイクトドンの子孫は、大量絶滅の危機を乗り越えて、小さな哺乳類に進化した。前の時代には進化の最先端にいたゴルゴノプスの系統は絶滅して哺乳類には移行できなかったらしい。
だが、エネルギー代謝においては最も進化していたはずの哺乳類は、地上の支配者にはなれなかった。まだ、この段階では、彼らよりもすぐれた身体能力や生存機能を備えた動物がいたのだ。その動物は、この時代の地表環境に最も適合していたのだ。
地上の支配者になりつつあったのは、新たな身体メカニズムと代謝システムを獲得した特殊な爬虫類だった。恐竜類( dinosauria
:ディノサウリア)だった。
映像が描くき出したのは、エウパーケリア( euparkeria )だ。W.T.パーカー氏にちなんだ「パーカーの素晴らしい動物」という意味だという。
この種の爬虫類がやがて地上の王者になっていく決定的な条件として、このプログラムが提示しているのは、2足歩行――それはまた驚異的な跳躍力と速力をもたらす――を可能にした腰椎と股関節の構造だ。それは、当然のことながら、その周囲の筋肉に持続的に酸素を送り込むことができる呼吸機能や心肺能力の存在を予定しているのだが。
この体長60㎝ほどの動物は、敏捷に動き回って、昆虫類を捕食していたという。昆虫の素早い動きを認識する視覚と脳の構造を持っていた。
物語は、この爬虫類が進化を重ねて、やがてアロサウルス( allosaurus :「珍奇(特異)なトカゲ」という意味)に進化していく姿を描き出して終わる。アロサウルスは獣脚類(テロポーダ:
theropoda :「猛獣の脚」)に属する。
ところが、現在の古生物学では、エウパーケリアは、恐竜類の直接の先祖ではないと言われている。恐竜類へと進化する系統樹から枝分かれして発生した爬虫類だという。まあ、「恐竜の先祖の親戚」というわけだ。
この映像物語では、「ペルム紀-三畳紀の大量絶滅」についてトピカルに描き出されていた。が、古生代の各時期を画するのは、数千万年ごとに繰り返す「大量絶滅」事件であった。
というよりも、古生物学の時期区分は、もともと、それぞれ「ある特定の場所で発見された大量の化石群の研究成果」にもとづいて、おこなわれている。だから、ある時期の開始は特定の化石群の発見(年代測定)ともに開始され、その化石群の衰退・消滅という痕跡によってある時期の終焉が定義されるしかないから、古生物の進化史は、結局のところ、化石群の消滅によって時期区分=画期を描くしかないのだ。
そこで、「カンブリア」――ブリテンのウェイルズ――とか「ジュラ」――スイス・フランスにまたがる山系――というような、化石が大量に出現した場所の地名によって、時期の名称がつけられる。
だから、生物進化史は、生物群の発生と消滅の痕跡、言い換えれば継起的な「大量絶滅」によって、跡づけられることになる。