その後、2000万年のあいだに地表の環境は激変し、爬虫類もまた大きな変化=進化を遂げた。
プレイトの活動パターンが変化して、陸地が大きな大陸へとまとまり始めたらしい。そうなると、海洋から遠ざかった内陸面積が拡大し、乾燥が進む。
石炭紀の温暖で湿潤な気候は、乾燥して寒冷な気候に変化した。現在と比べて20%ほど平均気温が低かったという。乾燥した大陸部では1年をつうじての気温の較差が大きくなり、また1日のうちの夜間~早朝と日中との温度差も大きかった。
気候変動に対応して、支配的な植物相はシダ類から針葉樹へと進化した。乾燥や気温の較差に強い植物が優位を獲得し、流水や湿地がなくても種子によって子孫を増殖させることができる植物が陸上に拡散した。それらの巨木の下の日陰でシダ類はサイズ小さな身体に進化して生き延びた。
地球全体として植物の分布面積が減り、また活動も低下したので、大気中の酸素濃度は低下した。
酸素濃度が低下したにもかかわらず、爬虫類の身体サイズは拡大した。
その原因は、餌とする主要な植物が、比較的軟らかいシダ類の葉などから、硬くて消化しにくい針葉樹の葉となったことで、長い消化器官が必要になり、結局、大きな消化器官を内蔵し、ゆっくり消化する巨体を備えた動物種がより多く生き残り、繁殖したからだという。
あるいは、サイズが小さくなって地面近くに葉を繁茂させたシダ類を食べる競争では、消化器官が大きな巨体の種が繁栄したからか。
この時期に最大の個体数を誇示して大陸をのし歩いていたのは、背中に広い帆のような膜を張った爬虫類、エダフォサウルス( edaphosaurus
:「大地に這いつくばったトカゲ」)だ。エダフォは、「大地」「地面」という意味。
体長は1m前後から3m以上までとさまざまだ。この身体サイズの差が、年齢差(成長段階の違い)によるものなのか、性差あるいは種の違いによるものなのかは、確定していないという。このプログラムでは、身体の色彩や模様などが基本的に同じなので、幼体と成体との年齢差によるものと描いている。
エダフォサウルスの背中の帆は、魚類の背鰭を巨大化したような形状で、脊椎から伸び出した何十本もの支柱=支脈によって薄い膜を支えていた。頭部のすぐうしろ(短い首)から腰(尾の付け根)までおよぶ範囲にあって、成体の帆は高さが1.5m以上にもなったという。
魚類でも背鰭が発達したので、魚類以降に進化した脊椎動物には、環境に応じて帆のような背側の膜が突出する遺伝プログラムがたたみ込まれているのかもしれない。
で、こんな巨大な帆が発達したのは、これをラディエイターとして体温の調節をするためだったらしい。朝(あるいは冬季)のうちは、帆を陽射しをできるだけ直角に近い角度で受けて、膜を流れる毛細血管の血液をいち早く暖めて、より大きな活動エネルギーを獲得する。逆に、日盛り(あるいは夏季)には、高めになった体温を下げるために、日差しが逸れる角度にしたり、風通しのよい日陰に移動して、膜の毛細血管の熱を放出する、というわけだ。
こうすれば、消化が悪い植物を食べて、体細胞内で熱に変わる化学変化に時間がかかっても、太陽熱を受けて体温を上昇させることができる。この時代の爬虫類は変温動物だが、エダフォサウルスは、以上のようにして、活動しやすい体温を維持することができた。
植物食獣のエダフォサウルスは、圧倒的な個体数を誇った。
となれば、当然、この動物を捕食するプレデターも活躍することになる。 遠目にはエダフォサウルスとよく似たプレデターがいた。ディメトゥロドン(
dimetrodon )だ。 di は「2つ」、 metro は「尺度」「標準」「支配中枢」、 don は「歯」という意味だから、「2種類の仕様の歯を持つ」という名前だ。
古生物の名称で「ドン」(語尾につく)とか「ドント」(中途に入る)がついた動物は、化石などで検証された歯の形状をもとに命名されたものだ。たとえば、イグアノドン(イグアナの歯を持つ)やヘテロドントサウルス(異種の歯を持つトカゲ)。
ディメトゥロドンは、上下の顎にそれぞれ2つの形状・機能を備えた歯を持っていた。1つは、鋭く尖った大きな歯で、将来の「肉食獣の犬歯=牙」の先駆になったもので、捕らえた相手に止めを刺し、肉を大きく引き裂く働きをする。もう1つは、食いちぎった肉を細かく引き裂くための鋭いが小さめの歯。
体長は成獣で、雌が最大3m、雄は最大4mに達するものもあった。
背中に大きな帆を張り出させた爬虫類という点ではよく似ているけれども、ディメトゥロドンは、ほかの動物を襲って捕食するための体制(身体の仕組み)を備えていた。
まずは大きな頭部。獲物をできるだけ遠くから発見・観察して狙いを定めるために発達した視覚を備えるためには、発達した眼と、すぐれた解像能力と運動機能を制御する、それなりに大きな脳(中枢神経)を格納する頭蓋が必要だ。
この時代には、捕食者は、まだ立体視力を獲得してはいなかったかもしれないが、それにしても、動物のなかでは最高にすぐれた視覚を備えていたはずだ。
大きな頭部は、獲物の身体のより大きな部分のより深いところまで噛みつき、鋭い歯を突き立てるための、大きな顎を備えることからも、必然的になる。
そして、できるだけ遠くを広い視野で見るために、頭部=眼を高い位置に置き、かつまた、素早く逃げる獲物を追いかけて追いつくための速力を得るうえでも、歩幅を大きくするように、足の付け根を高い位置にもっていく必要がある。
最近の研究では、エダフォサウルスの背鰭(帆)については、目るべきほどの数の血管密度がなかったとうことで、ラディエイターの機能はさほどなかったという説が有力になっている。他方ディメトゥロドンでは背帆のラディエイター機能は大きかったという。