クイーン 目次
王室の威信と女王の孤独
見どころ
あらすじ
王室の存在意義はあるのか?
王室制度の虚構性
ブリテンのエリートの意識
ダイアナの孤立
女王の肖像画
ダイアナの死
ブレアの得点
女王 対 民衆
死せるダイアナ、生けるエリートを動かす
追い詰められる王室
    *王旗と国旗
「民意」と王室
狭まる包囲網
孤立する女王
女王の帰還
孤独の周りに漂うもの
ブレアと女王との再会
マスデモクラシーにおける王権
  マスデモクラシーとは…
  民衆の期待または要望
  ダイアナ公葬は浪費?
  民主主義と王制・身分制
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王旗と国旗、そこに込められた歴史と社会の文脈

  ブリテンには、王室関係の旗が多数ある。イングランド王旗、エディンバラ公旗、ウェイルズ公旗などなど。そして国家関係の旗は、ブリテン連合王国旗、イングランド王国旗、スコットランド国民旗、ウェイルズ国民旗、北アイアランド国民旗…。それらのなかでも古い旗のなかには9世紀頃からの古い起源をもつものもある。それぞれの旗の図案は、王朝の変遷や地方の歴史を物語るシンボルを含んでいる。


ウェイルズ公旗(域内用)


連合王国標準旗


スコットランド標準旗


イングランド王国標準旗


ウェイルズ標準旗

北アイアランド聖パトゥリック旗

  たとえば、ユニオンジャックは、2つの十字架が交差していて、地や縁の色(意味合い)がいくつもあって、その組み合わせがそれぞれに図像学的な意味合い=象徴を表現するから、合計16以上の部品(由来)から構成されているといわれる。
  そこには上記のあれこれ旗が合成され、ブリテンの諸王国の統合などの意味がすべて統合されている。
  各種の旗にはそれぞれ何通りかのヴァージョンがあって、それぞれに掲げる場所や方式についての慣習や規則がある。
  たとえば右上のウェイルズ公旗は、ウェイルズ域内城館でのみ使用することになっている。また前ペイジの連合王国女王旗は、イングランド王国内だけに限定して使用することになっていて、スコットランドの城館ではデザインが少し異なる旗を掲揚する。
  独立心が高いスコットランドの政府・公共関係機関では、ブリテン連合王国旗ではなく、スコットランド王国旗が第一優先順位に掲げられたり配置されたりしている。それは民族旗であって、地方王国の民族意識を高揚するもので、横柄なロンドンの中央政府への対抗心を表している。

  アメリカや日本のように、学校卒業式に単一の「国旗」を掲げてナショナリズムを煽るような底の浅い、つまり外見だけの愛国心をことさらに表現しようとする安っぽい演出のような場面はない。何しろ「愛国心は卑劣漢の最期の逃げ場」とされる国柄なのだ。

  それに対して「日の丸」はデザイン的に極限まで簡素化されていてそれなりに美しいが、単純すぎて、そこには歴史や各地方の統合の意味合いを込める余地がない。つまりは、抽象度が高すぎる。あれは、人為が介在する「国家の存在」を意味する旗というよりも、「自然のイメイジ」そのもの(それだけ)を意味する旗である。
  ところがアメリカ合衆国の国旗を見よ。独立闘争時の反乱諸州の数=13(当初の連邦構成州の数)という起源を示すストライプと現在の連邦構成諸州の数を示す星。そして、赤と白と濃紺は、理想とともに、ブリテンとのアンビヴァレントな歴史関係――アングロサクスン語族の優越――を象徴する。
  つまりは、連邦国家としての出現成立の経緯と存在証明が込められている。

  なお、国や王の旗というものは本来は軍旗 standard であって、戦場や遠征地において友敵の識別、指揮官の所在を示す目印スタンダードだった。

「民意」と王室

  そんなこんなでエリザベスとチャールズは遅れてキャンプ予定地の湖畔に駆けつけた。
  フィリップは妻に首相からの電話はどういう内容だったのか尋ねた。
  「王宮に半旗を掲げてはいかが、という提案だったわ」と答えると、フィリップは憤慨した。
  「ばかな、あれは王が城に滞在しているという徴じゃないか。それ以外のいかなる意味も持たせてはならんのだ。
  このしきたりは、400年以上の歴史があるんだぞ。誰が死んでも、バッキンガムには半旗を掲げないんだ」
  だが、チャールズが反論した。
  「たかが旗のことではないですか。しきたりを変えてもいいのでは。社会の変化に王室も対応すべきです」
  太后――エリザベスの母親:先代の王妃――もフィリップに味方して言い添えた。
  「あなたの祖父ジョージ6世の死去のときにも、半旗は掲げなかったわ」
  ふたたびフィリップ。
  「民衆は意味も理解せずに勝手な要望を抱くのだよ。そのうちに、私たちにも改名を迫るぞ。ヒルダとヘクターにしろとな。民衆が君主に『ああしろこうしろ』と指図するなんて…
  そもそも、この喧噪は異常だ。あと48時間もすれば、騒ぎは収まるだろうよ」
  夫が激昂気味に声高に話したので、エリザベスは「向こう岸の孫たちに聞こえるわよ」と注意して、この話題をおしまいにした。

  バルモーラル城に帰ってから、チャールズは王太子つき秘書官とこの問題について話し合った。
  「私の両親は今、以前の私と同じように、ダイアナの虚像によって圧迫されている。同じ苦悩を味わっているのさ。
  両親はダイアナの落ち度(醜悪な面)がいずれ暴かれると思っている。だが、ダイアナの虚像は崩れないよ。 なにしろ彼女は、カメラや民衆の前での立ち振る舞いが巧妙だったからね。
  いずれにせよ、私は彼らとは別の対応をとらねばならない。
  さて、ハイグロウブ城――ウェイルズ公としての居城――には半旗を掲げてくれたかい?
  そう、ありがとう。では、反旗が翻っている写真を新聞広報パブリシティに回すよう手配してくれたまえ。
  それに、私からメディアに献花や記帳への感謝の声明を発表したいんだ……いやもとい、私と2人の王子のね」
  という具合に、世論の矛先をかわす術策を練っていた。

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