武士道シックスティーン 目次
女子高生の青春物語
ライヴァルとの出会い
肩透かし
対照的な2人
凛と生きる女子高生
少女剣士2人
インターハイ地区予選
「折れる心」
父親との再会
負けを恐れない心
果し合い
全国大会での再会
小柴先生と武士道
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人生を省察する映画
サンジャックへの道
阿弥陀堂だより
アバウト・ア・ボーイ
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

果し合い

  早苗から勝負を挑まれた香織だったが、まだ悩みのなかにいた。その日も、街中の公園でぼんやりしていた。すると、悩みのなかで答えを見出せずにいる妹を心配した兄、和晴がやって来て、父親のことや幼い頃の思い出を語り出した。
  「母さんが亡くなってから、父さんはどうやって僕らに接していいかわからずに、ただ厳しく剣道の稽古をつけるしかなかったんだな…… でも、あの頃は楽しかったな。
  ぼくらは父さんの喜ぶ顔が見たくて剣道に打ち込んだ」
  それを聞いて香織は、幼い頃に自分なりに剣道を自分の一番大事な楽しみとして選んだのだということを思い出した。
  兄が楽しそうに剣道に打ち込んでいるのがうらやましくて、父の道場に入門した。剣道をすることが楽しかった。ただ楽しいから剣道に打ち込んだのだと。剣道が好きだからやる。

  こうして、香織も早苗と同じような結論に行き着いた。
  そこで、香織は剣道場にいる父親に会いに行った。父親は香織に自分がつくった竹刀を渡そうとして言った。
  「今まで、お前自身に――剣道を続けるかどうかを――決めさせることがなくて済まなかった。だから、お前自身が決めなさい」
  父親は娘に頭を下げてそう言った。
  香織は「もう――ずっと前に――決めていました」と言って竹刀を受け取った。早苗との試合に臨むためだ。

  一方、早苗は高校の制服姿で高台の草原で香織を待っていた。そこは、最初に香織と通ったときに「海のような街を見おろす、まるで巌流島みたいなところ」と感動した場所だった。そこが「果し合い」の場所だ。
  竹刀で素振りの練習をした後、草原に仰向けになった。約束の時間になったが、まだ香織は来ない。早苗は少し心配になったが、待ち続けた。香織がふたたび剣道をする目的=意味を見出し、試合をするためにここに来るはずだと信じていたのだ。
  遅れた香織は、近道するために急斜面を駆け上ってきた。もちろん制服姿だ。ともに防具はつけないで竹刀を打ち合うつもりだ。
  早苗は坂を登ってきた香織を見て顔を輝かせた。
  「磯山さん、遅刻しすぎだよ。やっぱり武蔵だね」
  2人は笑顔で向かい合い、礼をしてから蹲踞した。そして竹刀を中段に構えて互いに気勢を発した。
  「よし、一本目!」ともに叫んだ。
  香織はいきなり早苗――香織との再会に感激していて隙があった――の頭部にメンを打ち込んだ――防具なしの頭に決まった。早苗は中段に構えたものの隙があったようだ。
  余りの痛みに早苗は顔を顰め、かがみ込んで頭を抱えた。


  「あ、大丈夫かよ」と駆け寄る香織を早苗は押しのけて中段に構えた。
  「いいメンだった。それでこそ武蔵だ。じゃあ、二本目いくからね」
  「二本目ももらった」と竹刀を振りかざした香織の胴に隙ができた。そこに早苗はドウを決めた。
  痛烈な衝撃に息が止まって咳き込み、腹を押さえて体を丸める香織。
  「これだ! 本気だな。待ちかねたぞ」
  「お待たせ。武蔵も弱くなったわねえ」
  「素晴らしいドウだった。小次郎も強くなったじゃねえか」
  「あらご挨拶。私はもともと強いのよ!」と早苗。
  「知らなかった」と香織が応じる。
  「ううん、あなたは知ってた。見つけてくれてありがとう」
  「どういたしまして」 「じゃあ、三本目、勝負!」と言い合って、2人はたがいに打ち込んだ。だが、互いに相手の攻撃を捌くので、勝敗はつかない。

  「私ねえ、引っ越すんだ」
  「関係ねえ。剣道をやってれば、また会える!」
  2人の顔は好敵手と再会した喜びに輝いていた。そのとき、2人とも自分の剣道のスタイルに対する自信を回復していた。やはり自分の剣道で行こう。だけど、相手にしかるべき敬意を払って自分にないものを学び取ろう、と思っていた。

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