いまや武士道が女子高生たちの生き方をつうじて描かれる時代となった。高校剣道部の部活動に励む女子高生たちが主人公の青春物語だ。
ここでは、部活剣道への取り組みをめぐって2つの立場、2つの感性の出会いとぶつかり合い、そして溶け合いが描かれる。
3歳から道場主の父親から英才教育を施されて勝つことにとことんこだわる少女と、勝負にこだわることなく楽しく剣道をしたい少女が出会い、ぶつかり、ともに励み合う姿がさわやかに、凛々しく描かれている。
原作は、誉田哲也『武士道シックスティーン』(文春文庫、2010年刊)。2人の女子高生が、交互に自分の目から見た高校生活や剣道部の活動を日記のように描く出すことで、物語を紡いでいく。交互対話形式の小説だ。
実に面白い女子高生の青春小説で、読み始めたらとことんはまってしまうほどだ。 映画作品は、その原作物語をかなりの程度に脚色した物語となっている。
映画では状況設定や人物設定・配置に関しては、かなり端折って描いているので、適宜、原作の設定を紹介して物語と背景を補うことにする。
この物語で「武士道」や剣道を極めようと奮闘するのは、16歳の女子高生たちだ。
映像物語は主人公、磯山香織の中学3年の剣道大会から始まる。
神奈川県の市民剣道大会でおこなわれた中学生の個人戦、「神泉旗」杯をめぐる試合の場面から。
その神泉旗杯の決勝戦で磯山香織は、甲本早苗と対戦して、うかつにも敗れた。
香織は剣道場を営む父親によって3歳から英才教育を受け、剣道一筋――それもひたすら勝つことをめざす剣道に打ち込む――発想スタイル・行動スタイルを叩き込まれた。中学の部活剣道では、全日本チャンピオンになって、向かうところ敵なしでやってきた。
ところが神泉旗杯では甲本早苗に負けたのだ。試合の形勢としては、磯山香織が終始圧倒的な優勢に立っていた。香織は鋭い踏込で面を狙って竹刀を叩き込み続けた。ところが、甲本早苗は香織の鋭い打ち込みから巧妙な足さばきで逃げ回りながらすべて受けていた。
早苗は絶妙な中段の構えで、つねに微妙な間合いを保っていた。
そして、香織が早苗をコーナーに追い詰めたと思ったとき、早苗は中段に構えた竹刀をわずかに押し出した。そのとき、香織は早苗の突きを警戒した――中学生剣道では身体成長期の危険を避けるため突きは禁止のはずだが――のか、一瞬立ちすくんだ。
その隙を衝いて早苗の面が決まった。
茫然とする香織。中学3年間では誰にも敗れたことのないのに、踊りを舞うように逃げ回っていた早苗に面を奪われたのだ。
ゼッケンと前垂れに記されていたのは、「東松学園」という校名と「甲本」という名前だった。試合後、香織は大会参加者名簿のなかから、自分に勝った対戦相手が「東松学園女子中等部 甲本早苗」であることを知った。
その半年後、中学女子剣道チャンピオンの磯山香織は、日本全国の高校の選り取り見取りの推薦枠のなかから「東松学園女子高等部」を選んで進学した。もちろん、甲本早苗に「借りを返す」ためだ。
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