カプリコーン 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
火星旅行の難しさ
ロケット発射の物理学
オレンジの皮の内側
プロジェクトの政治的背景
直前のアクシデント
政府機関の大ぼら
「SF映画」
謀略の綻び
「幽霊」になった飛行士
燃え尽きた衛星
宇宙飛行士たちの逃亡劇
宇宙飛行士を助けろ
爺さんは歴戦の勇士
幽霊が現れる
作品が問いかけるもの

火星旅行の難しさ

  ここで少し宇宙ロケットでの旅行をめぐる科学の初歩的な知識を検討しておきます。面倒な人は物語に戻る「プロジェクトの政治的背景」にまで跳んでください。

  ところで、現在の科学技術では、地球の重力と公転軌道に引きずられて運動する衛星=月はいいとして、別の公転軌道にある惑星や衛星に有人航行をおこなうことはできない。なぜか。
  原因は、太陽風、すなわち太陽が放出する恐ろしく強力な電磁波=放射線だ。太陽は恒星で、つまりは大規模な核融合反応と核爆発を持続する天体であって、宇宙空間にすさまじい破壊力の電磁波=放射線を放っている。
  私たち地表の生き物は、地表を覆う大気と地球が発する強力な電磁波の帯、ヴァンアレン帯という電磁界によって、太陽からやって来る恐ろしい放射線からかなりの程度保護されている。

  普段地球に降り注ぐ光、可視光や紫外線、赤外線も電磁波=放射線だが、私たち地表の生物は、それを与えられた環境として受容しながら36億年の発生・進化の歴史をつうじて適応してきた。
  ところが、地球の電磁界を離れた場所では、太陽からの放射線は、まるで水爆の爆心地並みの強さをもっている。しかも、太陽の表層で巨大なフレアやプロミネンスが発生しようものなら、地球上の全部の核兵器を爆発させたよりも何層倍も強力な放射線が放出される。
  そこで、月面への人類着陸は「夜の側」、太陽から見て裏側におこなわれた。巨大な熱エネルギーや放射線を避けるためだ。

  太陽風は、直径数十メートルのロケットや衛星を簡単に貫いてしまう。
  太陽風を十分安全に防ぐ宇宙船をつくるとするならば、映画「スターウォーズ」に登場する、ダースベイダーが乗る巨大な巡行宇宙艦のように数キロメートルの大きさが必要になる。金属や炭化水素などの材質で片側数十メートル以上の壁が必要だという。
  何しろ爆心地でも耐えられるシェルターを宇宙船に施すことになるわけだ。


  現在のロケット推進技術で火星に到達するためには、少なくとも1か月半はかかる。往復で3カ月以上。場合によってはその倍の時間が必要だという。有人衛星なら、もう少し長くなるかもしれない。片道2か月くらいか。
  映画では片道4か月、往復8か月かかるという設定になっている。今から50年前の科学技術ではそのくらいかもしれない。その期間中、ずっと太陽の放射線(太陽風)や宇宙線を浴び続けることになる。
  そのあいだにプロミネンスとか大フレアなど、ものすごく破壊力の大きな放射線を放出するような突出した核融合や太陽表層での磁気嵐が発生する確率はきわめて高い。帰りもあるから、60〜120日間、太陽がおとなしくしている確率は限りなく「0」に近い。
  この場合の放射線量は、広島や長崎の爆心地並みの強さだという。コンピュータも含めた機械だけなら火星まで無事に行けるが、体細胞を遺伝子プログラムで再生・増殖させている生物は無理だ。旅の途中で、深甚な放射能被曝を受け、死滅する。

  地球外生命体が搭乗するUFOの話が「眉唾」と言われる一番の根拠は、あの形状と大きさでは放射線=宇宙線からの防護が不可能だからだ。映画「インディペンデンスデイ」のように、地表が覆われるような影をつくる巨大な宇宙船でなければ、生物はそもそも地球に生きて到達できない。

  月面着陸ならば、太陽から見て、地球の電磁界の「盾」の陰に隠れるような位置取りで月の周回軌道に入り、太陽から見て、月の陰の側に回ってから月面着陸船を放出し、月の昼間と夜間との境目に着陸すれば、太陽風の影響をかなり回避できる。
  だから、もしアポロが月の昼間の側の中央付近に着陸した映像ならば、それは間違いなく虚偽だとわかる。
  月面着陸の宇宙中継映像は、おおむねこの論理の範囲にとどまっているので、事実であろうと推定できる。ただし、着陸地点に長い時間とどまることは、不可能だ。

  同じ理由で有人宇宙ステイション――地球の磁場の内部に位置するような軌道なのだろうが――もまた「夜の側」にできる限りとどまろうと軌道を設定しているはずだ。

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