カプリコーン 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
火星旅行の難しさ
ロケット発射の物理学
オレンジの皮の内側
プロジェクトの政治的背景
直前のアクシデント
政府機関の大ぼら
「SF映画」
謀略の綻び
「幽霊」になった飛行士
燃え尽きた衛星
宇宙飛行士たちの逃亡劇
宇宙飛行士を助けろ
爺さんは歴戦の勇士
幽霊が現れる
作品が問いかけるもの

謀略の綻び

  ところが、どこにも思考スタイルが緻密な几帳面オタクがいるものだ。何とNASAの中央管制室のメンバーである科学者だった。彼は、手許の電波計測器で、衛生からの電磁波がどのくらいの時間差(遅れ)で中央管制室に到達しているかを観測していた。
  観測値では、計器に何かトラブルがあるらしく、数十万キロメートルのかなたから発する電波にしては(といっても1秒内外で届くのだが)、到達が早すぎるのだ。彼は、カロウェイ博士に、この疑問を報告した。「まるで数百キロメートルの距離から発信されているようだ」と。
  カロウェイは、「君が使っている計測器はしばしば間違った数値を表示する。どこかがトラブルを起こしているらしいよ。信頼できない」と返答して、お茶を濁し、煙に巻いた。
  だが、この管制官はその後も個人的に観測を続けて、衛星から電波が管制室に到達する時間の異常な短さの問題を追究し続けた。そして、おりにふれて、カロウェイにこの疑問をぶつけたが、いつも身をかわされてしまった。
  そこで、この管制官はプロジェクトの指導者たちに不信感を抱くようになった。ついにテレヴィ局の報道部に電話で内部告発を試みた。

  たまたまこの電話を受けたのは、報道部門でも跳ね上がりの目立つ異端児、コールフィールドだった。彼は、地道な取材を積み重ねるだけの「ありきたりな報道」に食傷していて、このところ特ダネ(すっぱ抜き)ばかりを追いかけていた。
  彼は、今回の電話で告げられた事情の背後に、NASAという巨大な政府機関のスキャンダル(あるいは陰謀)が隠されている気配を嗅ぎ取った。そこで、コールフィールドは報道部長に取材の許可と費用支出を求めたが、言下に拒否されてしまった。日ごろの跳ね上がりが災いしたようだ。
  仕方なくコールフィールドは、単身、自腹を切って調査と取材に取りかかった。


  最初に向かったのは、NASAの管制官(その日は休暇を取っているはず)の住居だった。ところが、その男が住んでいるはずのコンドミニアムの部屋を訪れてみると、まったく別の女性が住んでいた。女性に尋ねてみると、ずっと以前からここに暮らしていて、管制官のことは知らないという。
  不審を抱いて部屋のなかを調べようとして紛糾し、追い返されてしまった。
  仕方なく車に戻ったコールフィールドは、別の取材先に向かおうとして、車を動かした。アクセルを一度踏んだとたん、車は勝手に加速し、制動器=ブレイクはまったく働かなくなっていた。ブレイクは壊されていて、車は暴走を続けた。
  コールフィールドは暴走する車を何とか操作して、運河沿いの埠頭に乗り入れて突っ切り、そのまま水に突っ込んだ。そして、運よく水中で車から脱出できて、どうにか生き延びた。

  NASAの幹部は、火星着陸プロジェクトの瞞着の綻びを取り繕うために、真実に近づくものを片端から「消す」ことにしたのだ。くだんの管制官は、とうに抹殺されていた。コールフィールドも、車に破壊工作を施され、あやうく命を落とすところまで追い詰められた。
  コールフィールドは、この謀略の背後に蠢く巨大な権力を察知した。その正体と謀略の構図を暴露しない限り、生き延びることができないことを覚悟した。このまま自宅に帰っても、テレヴィ局に戻っても、彼を葬り去る罠が待っているに違いない。
  となれば、単独で隠密調査、秘密取材で、この陰謀を暴き立てるしかない。
  彼は、知り合いの女性に電話して、当座の活動資金と車の手配を頼み込んだ。彼女はテレヴィ・ジャーナリストで、コールフィールドが前々から恋人としての交際を申し込んでは、肘鉄砲を食らっていた相手だった。だが、彼女は、コールフィールドの批判精神や取材能力には敬意を払っていて、着かず離れずの付き合いを続けていた。というわけで、コールフィールドに資金と車を提供した。

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