宇宙飛行士3人が乗り込んで、フロリダから西に向かって飛び立ったリアジェット機は、燃料切れで、荒涼とした砂漠に不時着した。3人は、今後の行動について検討した。
もしも3人いっしょに行動して捕縛されれば、何の証拠・証人も残さずにただちに抹殺されてしまうだろう。だが、1人でも逃げ延びて、マスメディアに事実を伝える可能性がある限り、残りの2人をただちに抹殺することはできないはずだ。
法制度上、NASAの幹部はすでに重大な国家と国民への反逆罪を犯している。
そのうえに、現役のエリート軍人(しかも少佐以上の幹部士官)を殺したことが暴露されれば、今度は軍事法廷で裁かれ、関与者は処刑される恐れが大きい。
ゆえに、1人でも逃げ延びている限りは、捕らえられた飛行士を生かしておくしかない。
こう考えて、1人でも逃げ延びてマスメディアに真実を伝えるチャンスを少しでも広げるために、3人は別れてそれぞれ別方向に逃げることにした。
3人はおのおの緊急救難信号弾(発射機)を携行して、捕縛が免れない状況に追い込まれたら信号団を発射し、残りのメンバーに伝えることにした。
ウォーカ−は南に、ウィリスは西に、ブルベイカーは北に向かうことにした。
とはいえ、身を隠すほどの樹林や山岳、岩塊もない広大な砂漠。まもなく、ウォーカーとウィリスは捕らえられてしまった。
3人は優秀な軍人だ。危難への対処能力は高く、サヴァイヴァルの訓練をこなしてきた。太陽の位置や地形を把握して、正確に方向を見極めて歩き続けることができる。
追跡者たちは、飛行士たちのこの能力を逆手にとって、探索捕縛の活動を展開した。最新鋭の高速ヘリコプターで、リアジェットの着陸地点を中心に上空から捜索した。
すると、まさに正確に真南に進路を取ったウォーカーを補足した。であれば、1人は真西に向かうだろうと読んで、ウィリスを捕縛した。とすれば、残りの1人は真北に向かっているはずだ。
ブルベイカーも2機のヘリに間近まで迫られたが、とっさに砂を掘って身体にかぶせて身を隠して、辛くも発見を免れた。
ところが、その夜、一帯を激しい砂嵐が襲った。吹きすさぶ砂塵の強風がブルベイカーをなぎ倒した。疲労困憊していた大佐は気を失ってしまった。
翌朝意識を回復したブルベイカーは、数百メートル向こうに、閉鎖された給油所を見つけた。給油所に駆け込んで、水を飲み、顔や手を洗った。
給油店の扉の鍵を壊して、廃墟になりかけた建物のなかに入り込んで探ってみると、公衆電話の回線は生きていた。コイン式のコーラ自動販売機の蓋をこじ開けて、コインを取り出し、自宅に電話した。
ところが、留守らしく、呼び出し音に答える者はいなかった。
その直前、妻のケイと子どもたちは、政府=NASA主催の告別式(国家葬らしい)に参列するために、迎えの車に乗り込んで出かけてしまったのだ。途方にくれるブルベイカー。
と、彼方の空に2機のヘリが出現した。追っ手は、給油所に迫ってきた。