日本での最近のロケット衛星打ち上げ地点は、鹿児島県に位置している。アメリカではフロリダ半島。ロシアでは、軍事的安全保障の万全を期しうる範囲で、できるだけ中央アジアに近い地点が選ばれる。つまり、それぞれの領土の内部で、安全保障が確保されるという条件で、できるだけ南の地点だ。なぜか。
赤道に近い(低緯度)ほど、地球の自転による遠心力が大きいからだ。つまり、地球の重力に逆らう外向きの力(加速度)ができる限り大きいところほど、より小さなロケット推進力で打ち上げができ、しかも、より正確な操作ができるのだ。
なにしろ、地球の赤道付近での円周はおよそ4万キロメートル。それを1日で自転するのだから、1時間に15°で1,667キロメートルの正味角運動量。それを1秒当たりの角運動量に直すと、444メートル。それだけの遠心力が働いている。音速を越える速度を角運動が与えているのだ。
地球の自転方向と同じ方向に傾けてロケットを打ち出せば、この分だけ正味角運動量をもらうことになる。
さらに、太陽系という1つの慣性系のなかでは、地球はとてつもなく高速で回転運動をしている。太陽から地球までの平均距離は、約1億5,000万キロメートル。公転の円運動の直径は、約3億キロメートルだから、その円周、すなわち公転距離の総延長はおよそ9億4,000万キロメートル。それを365日で回るのだから、時速に直すと、およそ10万7,000キロメートル。マッハ80以上の超高速だ。
しかも、これは太陽系という1つの慣性系の内部での相対速度にすぎない。太陽系を1つの円盤(ディスク)と見れば、この円盤は太陽系が属する銀河系という大きな円盤の上に乗っかっている。この円盤は、何万光年という広さだから、何億年かかって1回転するか知らないが、その回転速度はとにかくどえらい速度だ。
さらに、銀河系はその周囲の一群の銀河団の重力の中心を円運動しているから、その速度たるや恐ろしい巨大さになる。
ということは、地球の自転運動ならびに公転運動と同じ方向にロケットを打ち上げるしかないということになる。つまり太陽の見かけの動きと反対方向に、ということだ。
火星に行くなら、太陽系という局部的な慣性系の内部での話だから、とりたてて問題になるのは、地球の公転・自転速度と火星のそれの相対的関係だけだ。
だが、もし太陽系の外部への旅行や、さらに銀河系の外部への旅行になると、巨大な相対速度の相互関係が大きな問題になる。
しかも、これらの天体はそれぞれに特殊な重力場だから、重力場どうしの相互関係、潮汐力や重力波の干渉(緩衝)が問題になる。
ロケット推力の効果は、地球の大気の温度によっても大きな影響を受ける。
打ち上げ季節はだいたい真夏の前後どちらかに1か月ずれた時期になる。仮にそのときの地上付近の気温を37℃としよう。冬場には7℃としよう。
大気の体積と気圧、温度の関係は、圧力:p 体積:v 分子量:N 気体定数:R 温度:t とすると、
pv=NRt となるから、v=NRt/p となる。
気圧は一定とすると、結局、期待の体積は温度に比例する。この場合、温度は絶対温度だから、273度を加えた数値になる。
仮定の温度差では、およそ0.1の割合の温度差だ。つまり冬には大気は10%ほど収縮するわけだ。すると、冬場は同じ重さの大気の体積が0.9の3乗倍と小さくなるから、約0.73の体積比だ。
空気抵抗をもたらす大気密度は体積の逆数だから、密度すなわち空気抵抗が27%も増加することになる。
つまり、それだけ、推進力に負の効果がかかる。だから、20世紀中は冬場の打ち上げはまずなかった。とはいえ、真夏も高温で金属などロケットの素材の膨張が激しくなるので、暑い日は暑い日で面倒なことになるのだだろう。
ただし、ロケット推進技術が進歩し、制御技術がアップすれば、季候の安定した(晴天が多い)冬場、ただし厳冬季を除いての発射はありうる。ことにロケットの内部に精妙な電子機器が搭載されている場合には、気温が高い時期よりも低めの時期の発射がこのましい。
中学生の知識で理解できるだけでも、少なくともこれだけの力学がはたらいている。
というわけで、大気圏外に宇宙船を飛ばすために膨大なエネルギーとか資源が消費されるわけだ。だから、宇宙開発に使う金と資源があったら、地上の貧困とか環境破壊を何とかしろという要求ももっともなことだとは思う。