合唱団活動によって、素行の悪かった少年たちの態度は目に見えて良くなっていった。ラシャン校長もそれを認めて、少しずつ規律を緩め、禁止事項を減らしていった。ラシャンはクレマンによる合唱団指導の成果を認めるようになった。
だが、そんな「春の日より」は長くは続かなかった。
ある日、相変わらず反抗を繰り返して懲罰房に閉じ込められていたモンダンが懲罰房を抜け出し学校から逃亡した。しかもその後、校長が管理していた学校運営資金がまるごと盗まれていることが判明した。ラシャンは、逃げ去ったモンダンが盗んだと決めつけて、警察に通報し捕縛を要請した。
やがて捕まったモンダンは少年刑務所送りになることになった。
しかし、まもなく金を盗んだのはモンダンではなく、コルバンという少年であることが判明した。にもかかわらず、ラシャンは事実を警察に伝えず、モンダンに窃盗の罪をかぶせたままにした。
学校の当面の運営資金を失ったため、ラシャンは経費節約のために教室の暖房を止めた。フランス南部とはいえ、学校は標高の高いところにあるため、教室は冷え冷えとして、生徒や教師は寒さに震えながら授業をするはめになった。
しかし、ラシャンは自分の報酬だけはたっぷり受け取って、近くに住む家族とともに贅沢な暮しをし、生徒たちにも見せつけた。富裕で優雅な生活を誇示することが、自分の権威を高めることだと考えているのだ。
子どもたちと仲良くなったマクサンス先生は、そんなラシャンのやり方に憤って、校長宅に蓄えてあった薪を盗み出して、寒さに震えている生徒のために学校の暖房に用いることにした。威張るだけで運営管理には杜撰なラシャンは気がつかなかった。
■合唱団の解散■
ラシャンの態度は少年たちの批判精神にも火をつけた。
子どもたちは、合唱の手法でラシャンをからかう内容の歌詞の曲をつくり、校長室の外で歌い出した。合唱自体は素晴らしいできだったのだが、とにかく自分の威厳を取り繕うことに腐心する権威主義者であるラシャンは、怒りまくってクレマンに命じて合唱団を解散させてしまった。
というわけで、表向きは合唱団は解散した。授業時間中には練習できなくなった。
だが、クレマンはラシャンが学校から退去した夜中、就寝時間に子どもたちの寄宿房で密かに合唱の練習を続けることにした。解散の危機に直面したことで、少年たちはいっそう熱心に練習に取り組み、いよいよ水準は上がっていった。