ラシャン校長が学校に帰ってみると、休日寄宿舎にいるはずの生徒たちが誰もいなかった。火事の犠牲になったという様子もなかった。
気の小さいラシャンが焦燥感に打ちのめされそうになっているところに、合唱しながら生徒たちとクレマン、マクサンスが戻って来た。
ラシャンは生徒たちの無事を喜ぶどころか、無断で生徒を森へのピクニックに連れ出したクレマンを責め立てた。学校にいれば、家事は防ぐことができたというわけだ。
マクサンスは自分がピクニックを提案したと言おうとしたが、クレマンは止めた。
そして、教師と生徒の外出の責任をすべて引き受けることにした。そのくらいにラシャンのやり方に腹を立て、辟易していたからだ。
「重大な服務規律の違反だ。だから、クレマン、君を解雇することになる」とラシャンは言い出した。
やがて、クレマンが学校を去る日がやって来た。
だが、ラシャンは生徒たちにクレマンとの別れを惜しむ暇を与えなかった。授業時間中にクレマンを追いたてた。
それでもクレマンとしては、あの悪ガキたちは、ラシャンお鼻を明かすためにこっそり抜け出して見送ってくれるのではないかと期待していたクレマンは、誰の見送りに出てこないので、いささかがっかりした。
ところが、クレマンが2階に教室がある建物の下を通ったとき、校庭にたくさんのメッセイジを書いた紙きれが落ちていた。拾い上げてみると、クレマンに感謝や惜別の気持ちを告げるものだった。あとからもどんどん落ちてくる。
教室から顔を出す生徒はいない。だが、別れを惜しむ手紙はどんどん窓から落ちてくる。
クレマンはそのうちの何枚かを拾い上げて、満足そうに教室の窓を見上げた。
これまでここでやってきたことは無駄ではなかった。そんな満足感が心をよぎった。あの悪ガキどもが心豊かになって、素直に別れを惜しんだり他人への感謝を表現するまでに成長したのだと。
クレマンは森のなかを歩いて、バス停まで来た。バスがやって来た。
すると、そこにペピーノがわずかな荷物を詰めたザックを背負って追いついてきた。
「ぼくを、連れて行ってよ。お願いだから・・・」切実に訴える。
「いや、だめだ。君は学校に戻れ」と告げて、クレマンはバスに乗った。
ところが、クレマンはすぐにバスから降りてきて、
「いいだろう、ペピーノ。いっしょに行こう」と声をかけた。
その後クレマンは、ペピーノを養子にしたのだろう。仲の良い親子として暮らすことになったらしい。
「親が土曜日にぼくを迎えに来るんだ」と言っていたペピーノの予言は正しかった。というのも、ペピーノがクレマンと旅立ったのは土曜日だったからだ。
ピエールは、ペピーノとクレマン先生の話をしながら、遠い過去の少年時代を回想したのだろう。
さて、ピエールはおそらくクレマンが学校を去った後、コンセルヴァトワールに進学して才能を開花させて卓越した音楽家になった。今は、指揮者として世界を回って公演を開いている。
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