合唱団の活動は前よりも堂々と活発におこなわれるようになった。
しかも、伴奏ピアニスト――チェンバロ(ハープシコード)を弾く場合もある――として数学の教師、ログマンが合唱団に加わることになった。彼は大の音楽好きだったが、自分の趣味を生かす場がなくて閉口していたのだった。そこに、クレマンが合唱団をつくったので、大喜びで参加した。
とはいえ、あの権威主義者、ラシャンのやり口は変わらなかった。
むしろ、合唱団の演奏会の成功を踏み台に県の教育界、さらには国家レヴェルのの教育界への進出を狙っていた。矯正寄宿学校の新たな運営方法の成功を理由に政府から叙勲してもらえるように、伯爵夫人に働きかけていた。
前よりもいっそう自信満々に権威を振りまくのだから、学校運営・管理での息苦しさは相変わらずだった。
そんなわけで、初夏のある休日、ラシャンが出張しているのを幸い、クレマンはマクサンスとともに少年たちを近所の森にピクニックに連れ出した。マクサンスの提案だった。
■モンダンの復讐■
おりしもその日、モンダンは――ラシャンによって公金窃盗の冤罪を着せられて入所していた――少年刑務所から脱走した。そして、憎いラシャンに復讐を誓っていた。
彼は、誰もいなくなった「池の底」学校に忍び込んで、校舎に放火した。ラシャンの権威や権力の表出の場になっている学校を燃やして破壊してしまえば、ラシャンを破滅させることができるとでも考えたのだろう。
燃え上がった寄宿学校。火事を発見して近隣の消防隊が駆け付けて消火活動をしたが、手の施しようもなく、寄宿舎はすっかり燃え落ちてしまった。
そのとき、ラシャンは県の教育委員会の幹部会に出席して、伯爵夫人の推薦で自分の――叙勲の理由となりうる――功績をアピールしようとしていた。そこに、学校が全焼という急報が届いた。血相を変えてラシャンは学校に戻ることにした。
「池の底」の学校運営に関する自分の業績を大げさに誇示しようとした最中に、学校の火災というとんでもない不祥事が発生したのだから。