マッケンジー脱出作戦 目次
収容所脱出の皮肉な結末
見どころ
あらすじ
物語の背景と時代設定
捕虜の扱いの公平性
辺境の収容所
手錠事件
コナー大尉の赴任
陰謀の巣窟
腹の探りあいと駆け引き
脱走計画
怪物、シュリューター
早朝点呼での乱闘
同胞殺害
状況の読み合い
逃走と追跡
巧妙な逃走方法
ドイツ兵発見
皮肉な運命
冷めた歴史観
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コナー大尉の赴任

  おりしもその頃、ジャック・コナー大尉は、軍組織での不行跡(規律違反)について査問されていた。このアイアランド人は、酒癖は悪い、軍の女性に手を出す、上官を殴るなど、これまでに何度も懲戒や懲罰を受けていた。軍に入る前には、やり手、荒くれの犯罪事件記者(サツ回りのブン屋)だった。
  アイアランド人ではあっても、名前がオコンナーではなくコナーであることから、古くはイングランドからの開拓植民者の子孫――アイアランドでも異端――かもしれない。だから、北方ゲルマン風の体格で身体がでかい。態度もでかい。規則や規律よりも、目的(しかも組織よりも自分の目的)を重視し、しかも手段を選ばない。

  この組織のトラブルメイカーを、軍情報部(MI)のカー将軍が庇護し、自分の組織に引き抜いた。つまりは、規則だらけで堅苦しい軍組織のなかで、周囲の目とか上官の権威などに束縛されない情報活動や「汚れ仕事」に打ってつけの行動力と個性の持ち主だと考えたからだ。
  で、カー将軍は、スコットランドのマッケンジー捕虜収容所でのドイツ兵捕虜の動きを探らせるために、コナーを――名目上、ペリー少佐の副官として――送り込んだ。この収容所で続発する騒擾や反乱の実態を調査し、背後にあるナチスの撹乱工作や脱走計画を探り出して阻止するために。

陰謀の巣窟

  ペリー少佐が収容所長に着任してからは、収容所には不穏な動きが続いていた。
  それまでは、ドイツ兵は収容所の広大な敷地の内部で比較的自由かつ平穏に生活していた。捕虜たちは、居留地(ヒュッテ群)の周囲の森林や草原に自由に出歩くことができた。そのため、近隣のスコットランド住民との交流などもあったという。
  ところが、ペリー少佐は、ドイツ兵捕虜には自由が与えられすぎていると判断して、居留地からの外出を禁じた。その当時、捕虜の代表者となっていたヴェストホーフェン将軍(インテリ)は、ペリー少佐の言い分を受け入れた。
  だが、その直後、それまで健康だったヴェストホーフェン将軍は原因不明の心臓発作で急死した。

  彼に代わって代表=指導者に就任したのは、ウーボートの艦長だったヴィルヘルム・シュリューター大尉( Kapitänleutnant :ドイツ海軍の大尉)だった。
  この男は、入所当初からナチス本部から反乱や騒擾、さらには脱走について指令を受けていたようだ。だから、ブリテン軍に従順なヴェストホーフェン将軍を抹殺して、指導者の地位を奪い取ったと見られる。
  その後、ヴィリ・シュリューターは、ドイツ空軍捕虜を除いたすべてのドイツ兵を指揮統率し、組織的な反抗を企て、他方で巧妙な脱走計画を進めていた。いまや、捕虜ヒュッテは陰謀の巣窟になってしまった。

  そのさい、空軍捕虜は、ドイツ兵全体から「爪弾き」「のけ者」にされていた。おそらくは、空軍パイロットは貴族や富裕家門の出身者が多く、高学歴ないしインテリでナチス党の強引な方針に対しては批判的だったからだろう。空軍のテクノクラートは、ヒトラーユーゲントからは、目の敵にされている場合が多かった。
  ドイツ軍の内部では、隠然、隠微に、分派闘争や階級闘争が繰り広げられてたのだ。
  いったいにナチス党の(下層階級出身の)成り上がり者たちは、エスタブリッシュメント=エリートに対しては、強い反感や敵意を抱いていた。彼らの多くは、ナチス党組織やSSなどの狂信的な暴力組織での地位の上昇によって、既成エリートの優位を奪い取ろうと欲していた。
  その意味では、ナチス党の権力奪取と軍組織でのヘゲモニー掌握は、階級闘争の結果生じたある種の「暴力革命」であって、既成のエリートの権力を掘り崩して奪い取るという、ヘゲモニーブロックの転移の側面を持っていた。

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