その頃、コナーは偵察機に搭乗していた。
偵察機用の草原飛行場から、偵察機が偽装トラックを見失った地点をめざして飛び立っていた。コナーは、偵察機のパイロットに樹林帯からさらに海岸線に沿って北上するように指示した。
■ドイツ兵の過失■
ところが、ここで周到な準備と警戒によって目的地まで到達したドイツ兵に、気の緩みからミスが起きた。トラックの処分をめぐってだ。
シュリューターの副官ヴォルフ中尉は、トラックを隠すために海蝕台地に穿たれた大きな穴にトラックを落とした。ところが、穴の底に落下したトラックの燃料が漏れて、衝撃で激しく燃焼し始めたのだ。炎とともに黒い煙が立ち昇った。
このとき、運はコナーの側に傾いた。
入り組んだ長い海岸線の上空で途方に暮れていた偵察機は、海蝕台地の草原で黒い煙の筋を発見した。コナーはパイロットに降下旋回を求めた。黒煙に接近すると、怪しい気配があった。何度か旋回するうちに、海岸段丘の下の湾内にウーボートを、断崖と波打ち際に黒装束のドイツ兵集団を発見した。
コナーはただちに海軍に通報して、最寄りの沿岸哨戒艦艇との無線連絡を確保した。ブリテン海軍の快速小型水雷艇が、湾の向こうの岬に接近しつつあり、まもなくウーボートが浮上した湾に到達する見込みだという。
■最後の駆け引き■
それにしても、脱走ドイツ兵のゴムボートの何艘かは、すでに海に漕ぎ出していた。
コナーは、ゴムボートの進行を遅らせるために威嚇しようと、偵察機を急降下させることにした。水雷艇が到達するまで、ゴムボートの動きを妨げて、どうにか時間稼ぎをするためだ。だが、ゴムボート上のドイツ兵は、偵察機に向かって機関銃を撃ってきた。ウーボートの機関銃も火を噴いた。
本土専用の偵察機には機銃武装がなかった。せいぜい、急降下で威嚇するだけしかなかった。
急降下旋回を繰り返すうちに、偵察機は被弾してしまった。ウーボートの機関銃は射程が長かったのだ。偵察機は航続能力を失ったようだ。
仕方なく、偵察機は海蝕台の草原に不時着することにした。
この間に、ゴムボートのいくつかはウーボートに接舷して、何人かのドイツ兵は艦内に救出された。ところが、偵察機に気を取られて銃撃を執拗に繰り返したゴムボートの1つは、潮に流されて進路を外れてしまった。
おりしも、そのとき、岬を回ってきた湾にブリテン海軍の水雷艇が現れた。
ウーボートは危険を察知して、残りのゴムボート1つを見捨てて潜水を開始した。