マッケンジー脱出作戦(1970年)は、ナチスに忠実なドイツ軍情報部員の捕虜収容所脱出作戦と軍規に逆らってばかりの反骨漢のブリテン軍人との知恵比べと出し抜きあいを描く戦争映画の傑作。ところがこの作品は、日本ではほとんど知られていないようだ。
物語の語り口=描き方はきわめてシニカルで――シェイクスピアを生み出した――ブリテン人好みだが、皮肉が効いた物語よりも勧善懲悪を好む日本人には向いていないかもしれない。ここでは私個人の好みにしたがって取り上げる。
原題について
原題は The McKenzie Break で日本語に直すと「マッケンジー収容所からの脱走」。ブレイクは「脱獄」とか「破獄」を意味する。
見どころ
ブリテン人は、映像作品でも、単純な「勧善懲悪」の物語よりも「皮肉な結末」「苦い現実」を好むようだ。その傑作の1つが『マッケンジー脱走』だ。スコットランドの捕虜収容所からのドイツ兵の脱走劇を、一種のコンゲイム(騙し合い)として緊迫感たっぷりに描ききった傑作。
戦争という複合的現象のなかの1側面を冷徹に描き出している。知恵比べの巧妙さと「結末の苦さ」が、深い印象を与える。
しかも、映像の視線はクールで、ドイツ兵とブリテン軍の双方に対して客観的でしかも突き放している。「勧善懲悪もの」を好む人には、あまりおススメではない。だが、知恵比べとかプロットの巧みさを好む人には、この上ない上質の物語だ。
第2次世界戦争の後半、スコットランドのマッケンジー収容所に収容されていたドイツ兵捕虜の脱走計画とそれを追跡・阻止しようとするブリテン軍情報部将校の知恵比べと出し抜きあい、騙し合いをスリリングに描く佳作。
ブリテン陸軍のコナー大尉は、優秀な能力をもちながら、古い貴族風社会の軍隊秩序や軍官僚組織の閉塞性にいつも憤懣を抱いていて、上官に逆らい軍組織の規律を平気で踏み破る反骨漢だ。
ついに軍紀違反で軍法法廷での審問を受けて、厳罰が嫌なら軍情報部の工作員となることを命令された。マッケンジー捕虜収容所でのドイツ兵の脱走を阻止すること――脱走が起きた場合には脱出兵の追跡・捕縛――を命じられた。
一方、捕虜となったドイツ軍のシュリューターは狂信的なまでのナチス党員で、ブリテン軍の威信を傷つけるために収容所からの脱走を企む。
こうして、ドイツ軍情報部の工作員となっているシュリーターの脱走作戦とブリテン軍情報部の指示を受けたコナー大尉との息詰まる知恵比べと追跡作戦とが激突する。ともにアクの強い個性どうしのぶつかり合いだ。
シュリューターは、仲間のドイツ兵の多くを犠牲にするあざといやり方で脱走した。脱走者たちは、偽装トラックを使って巧妙に逃走を続けた。
コナーは警察や空軍、海軍と協力して、シュリューター一味を追跡しようとした。両者の息詰まる知能戦が繰り広げられる。偵察機に乗ったコナーは、ついに海岸でウーボートと落ち合っている逃亡ドイツ兵を発見した。そして迎える「皮肉な結末」。
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