ヒトラーの雁札 目次
ベルンハルト作戦とユダヤ人狩り
見どころ
生き残った小悪党の回想
収容所内での差別と格差
贋札製造のユダヤ人たち
ベルンハルト・プロジェクト
ポンドからドルへ
巨額決済の経済的な意味
残された贋札
ベルンハルト作戦の結末
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炎のランナー
諜報機関の物語
ボーン・アイデンティティ
コンドル

ベルンハルト作戦とユダヤ人狩り

  2007年制作の映画『ヒトラーの贋札』の原題――本来のオリジナルはドイツ語版――は Die Fälscher 、英語版では The Counterfeiters 。ともに「贋作者たち」「贋札製造者たち」という意味。
  題名の通り、ナチス・ドイツの大がかりな贋札発行作戦を描いた物語だ。
  史実にもとづく物語だが、人物配置、状況設定、物語の展開には残酷なまでに透徹したアイロニーが効いていて、人間はどこまで残酷になれるか、尊厳を奪われ尽くした状況下で人びとはどのように惨めに振る舞うかを見せつける。
  贋札製造は1942年から1645年まで、ナチス・ドイツのザクセンハウゼン強制収容所でユダヤ人印刷工たちを強制しておこなわれたという。映画に脚色されて再現されたその状況は、スロヴァキア人アドルフ・ブルガーの記憶・覚書によっている。

見どころ
  この映画で描かれるのは、第2次世界戦争においてナチスドイツが計画・実行した贋札製造・発行作戦を、この作戦に強制的に駆り立てられたユダヤ人たちの側から描いた物語。
  ベルンハルト作戦 Aktion Bernhard / Unternehmen Bernhard と呼ばれるこの作戦は当初は、精巧なつくりの連合国側国家の贋札を大量に発行流通させて、連合国側のヨーロッパ経済を混乱させ、連合国側の戦力を財政面から破壊しようというものだった。
  ナチスはドイツの軍事的膨張の前に立ちはだかるブリテン帝国の金融・財政を混乱させ破綻に追い詰めるために、膨大な量のポンドスターリング紙幣の偽物を製造・発行する作戦に出た。
  総額でおよそ1億4000万ポンドの贋札を製造してヨーロッパ中に流通させるはずだったが、ブリテンの国家財政と経済が破綻する前に、マルクが世界市場で拒絶されドイツ自身の財政が行き詰ってしまったことから、兵器や食糧などの軍需物資を世界市場で買い付けるために贋ドル札の発行に重心が移ってしまった。

  1億4000万ポンドといえば、当時イングランド銀行が備蓄した金準備や支払い能力をはるかに上回る量だった。だから、作戦を続ければ、ポンドへの信認は大きく傷つき、ブリテンの国家財政は破綻にまでは行くことはなかったにしろ大きく傾いたはずだった。
  ところが、ドイツは当初の戦略を放棄して、贋ドル札の発行に切り替えた。ブリテンは財政的・経済的に生き延びることができた。

  ところで、ナチスは贋札発行作業を強制収容所のユダヤ人におこなわせた。ユダヤ人狩りでかき集めた優秀な印刷業者や製版職人、版画家や彫刻家たちを、強制収容所のガス室送りを免除する代わりに贋札づくりに駆り立てたのだ。拒否すれば、処刑が待っていた。
  虐待と処刑と隣合わせという極限状況のなかで、人間の生存欲求やエゴが噴出する映像は、見る者の心に突き刺さる。
  作戦に動員されたユダヤ人たちは、とにかく生き延びるために、ユダヤ人迫害を推進するナチスドイツを強化し、連合軍の力を切り崩すための陰謀に加担させられていく。
  これは、歴史と運命の皮肉を痛烈な批判的視点で描き切った作品である。

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