父親たちの星条旗 目次
政治の手段としての戦争
見どころ
あらすじ
「誤算」の日米開戦
日本の海軍の無能さ
真珠湾攻撃
軍産複合体
戦争の「悪夢」
山頂の6人
山頂に星条旗を掲げる
戦時公債キャンペイン
事実 truth とは何か?
アイラの脱落
それぞれの人生
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史上最大の作戦
パリは燃えているか
グリーンゾーン
戦艦ビスマルク撃沈

軍産複合体

  北アメリカ諸州は独立革命後、単一の国家の法というよりもむしろ国際法といった方が実態に近い合衆国憲法の批准によって、分散的な連邦レジームを構成していた。それが、強固に統合された国民国家となるのは、じつは、1930年代である。世界恐慌による深刻な経済的・政治的危機への対応が、強固な国家的的統合の直接のきっかけとなったのだ。
  1929年の金融恐慌とその後長引いた大不況と統治構造の深刻な危機。これに対抗して経済と国家レジームの再構築を企図したのが、ニュウディール政策体系だった。

  恐慌直後、効果的な政策を打ち出せなかったハーバート・フーバー率いる共和党政権は、33年にフランクリン・ルーズベルト率いる民主党に大統領府を明け渡した。
  ルーズベルトの大統領府は、1933年から第2次世界戦争期にかけて、金融政策から産業基盤建設のための公共投資、社会政策にいたる市民社会への国家装置の系統的な介入・組織化の仕組みをつくり上げた。
  こうした国家装置の連邦各州への介入と組織化によって、合衆国ははじめて国民国家へと統合されていった。
  国民的統合にとって決定的に重要なことは、大統領府=中央政府(そして連邦議会)を中核としてその周囲に各州の支配階級・統治階級を結集させ、強固に凝集させることである。経済界・実業家のなかの指導的人士、そして各地の政治的ボスたちを経済対策から防衛政策までおよぶ問題をを検討する委員会や審議会に呼び集める。連邦規模で統一的な各種の政策調整をおこなわせる――そういう制度や仕組みを築き上げたのだ。

  何よりも民主党政権は、世界的規模での経済的危機と、そのなかでの列強諸国家(同盟)の対立・敵対、さらにはブロック化、国内での階級闘争の激化などの事態を緊急事態 emergency として位置づけた。そして、大統領府の直下に緊急(事態)管理局 EMA : Emergency Management Agency を組織、設置した。
  EMAは、連邦規模で結集した産業指導者・政治指導者による提言や指導を受けながら、結局のところ、国家財政装置や軍を中核とする連邦の統合・組織化のメカニズムを形成していった。


  とりわけ重要な事態は、当時の最先端技術の開発を民間需要ベイスだけでなく軍事技術・兵器開発と密接に結びつけたことだった。資本主義的経済では軍事部門への投資は、「平和主義者」が考えてきたような「不経済」で「非生産的」なものではない。
  民間の技術革新は国家の財政支援や軍備調達スペンディングによってただちに軍需に転用され、兵器や軍事の最先端技術は、民間での自動車、重機械、航空機、船舶、化学製品、電気・電子製品などの耐久消費財や生産財での製品開発に転用・転換されながら、巨大な需要の波を誘導していった。
  世界市場で最有力の競争力をもつ製品群のプロダクト・ライフ・サイクルは、まさに軍事開発が起点となって循環運動することになった。

  まさに1930年代後半から世界市場を席巻することになるマス生産、マス消費がもたらす利潤と資本蓄積は、人類史でも未曾有の軍需と民需とが密接不可分に融合した経済システムだった。
  民主党政権が経済と国家の再構築のために中央政府に全連邦から終結させた経済的および政治的支配階級の凝集と融合、利害調整、需要喚起の政策体系こそが、アメリカに軍産複合体を生み出した母体だった。
  そして、この軍産複合体こそが、戦争中から戦争後の長い期間にわたる世界的規模での経済成長を牽引・支配するヘゲモニーの戦略中枢となっていく。

  だが、巨額の財政投資はそれなりに国家の財政の逼迫を招き、経済成長で所得が増えてきた一般民衆にとっては税負担の重みが急激に増していく事態をもたらした。経済成長のペイスも鈍化し始めた。景気循環の下降波が現れ始めたようだ。
  そんなときに、成長のための刺激は極東からやって来た。それが、日本海軍による真珠湾奇襲攻撃と宣戦だった。最先端技術=兵器開発、軍備のための呼び水となった。多くの人員の生命を代償として。悲しいが、これが歴史の事実だ。

  というわけで、太平洋戦争の開戦は、日本の当局者の思惑とはまったく逆に、敵対国アメリカの工業技術と経済、金融の未曾有の膨張を呼び起こす契機となった。短期決戦によって講和に持ち込むという言い訳じみた作戦根拠は、ここに巨大な自己欺瞞、虚偽であることが明らかになった。
  当時、日本はヨーロッパに対抗しうる経済的力量を獲得しつつあったが、その大半を無謀な戦争に次ぎ込み、アジアの林野に朽ち果て、太平洋の島嶼や海底に没することになる兵器や軍事物資への投資につぎ込み、国土を悲惨な破壊に導く轍にはまり込んでいった。

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